俺は、というかクラスメイト達はいつも悩まされている。
とある双子の仲良しっぷりに。
例えば、月曜日。


「あれ?香水かえたの?」

が言いながら、鳴上の首元に顔を近づけた。
あと数センチで首に唇がくっついてしまう、くらいの距離でスンスンと鼻を鳴らしている。
匂いを嗅がれている方も、平然として頷いて、香水のメーカーがどこのものか説明していて。

は・・・つけないよな」

今度は男女逆転の構図が出来上がった。
教室がザワめいたってこの2人は、気にも留めない。



例えば火曜日。
料理スキルがむちゃくちゃ高い、鳴上の手作り弁当をいつものようにつついている時。

「ほら」

当たり前のように、鳴上がの口元にコロッケを差し出すと、も当然のように口をあけて。

「うん、おいしい!」

いわゆる、あーんって奴を自然にやってのける。


例えば水曜日。
鳴上兄妹の、いとこの菜々子ちゃん。
彼女の新しい髪形研究と称して、鳴上は器用にの髪をいじっている。

「ふふっ・・・く、くすぐった・・・ひ!」
「ほら、じっとしてろよ」

髪を梳かれるのがくすぐったいのか、頭をフラフラさる
土台がグラグラ動くから、やりにくくてその頭を押さえつける鳴上。
傍目からは、じゃれあっているようにしか見えない。



こんな風に、この双子はいつもいちゃいちゃべったべったしてる。
本人達に言わせれば、普通のことらしいけど。
外野から見れば、恋人同士のいちゃつきにしか見えなくて。
いつものメンバーも、クラスメイトもこいつらが放つピンク色のオーラにげっそりしている。


「お前ら、さ・・・・ちょっとは自重しろよ?」

親切心から俺が忠告しても、何を自重するかさっぱり分かってないし。
気をつける!との言葉をもらったって、翌日にはそれを忘れてべったべたしてるし。
兄妹で仲いいのは、いいことだと思うぜ?
俺一人っ子だし、羨ましいぐらいだ。
けどさ、限度ってものがあんだろ?


「鳴上兄妹!今日こそは、俺の言い分聞いてもらうぜ?!」

昼食を食べ終わった後、当たり前のようにの膝に横になった鳴上と、当たり前のように膝枕をしているを指差すと
2人ともキョトンとした顔で俺を見上げ、里中と天城はまた始まったとばかりに、苦笑いを浮かべてる。

「何を?どうしたの、陽介」
「双子で仲いいのは、すんばらしいことだよ、実際」
「・・・・何が言いたんだ、花村」
「でもさ、限度ってもんがあんだろ?!恋人じゃねーんだから、もうちょっと節度を・・・!」
「ああ・・・・・寂しいんだ、花村の奴」


日本人たる節度の大切さを説こうとした俺を遮ったのは、里中。
寂しいって、誰が?俺が?どういうことだ?
疑問だらけの俺を置いてきぼりにして、天城もそうかも!なんて納得してるし。
おいおいおい、これどういう状況だよ?!

「そうか・・・花村、それは悪いことをしたな」
「は?お、俺はお前らのいちゃつきっぷりをだな、」
「陽介だけ、仲間はずれにしないからね!」

なんてイイこと言ってっけど・・・つーか、。なんで自分の膝叩いてんだ?
確かに鳴上はの右膝を枕にしてて、左側あいてっけど・・・・
さらに混乱する俺を置いて、はひまわりのような笑顔を浮かべた。

「ほら陽介もこっち、おいで?」
「ふにふにしてて、丁度いいぞ・・・いてっ?!ツネるなよ」
「今の発言、女の子なら怒るんだよ。覚えておいて下さいな、お兄ちゃん」

そのお兄ちゃんのオデコをぴしゃり、と叩いて笑う
叩かれたオデコを摩りながら、眉間に皺を寄せる鳴上。
ブチリ。俺の何かが振り切れた音がした。


「お前ら、そこになおれ!」

双子を正座させた俺に、天城が花村家!と爆笑するのをBGMに、節度の何たるかを、もてる精一杯で説明した。
でも次の日には"いつも"の鳴上兄妹で。
なんとも言えず項垂れる俺に、里中がポンと肩を叩いて一言。


「ドンマイ」

ほんっと、俺も思うよ。
ここまでのいちゃつきっぷりを見せられたら、逆に普通の距離を保ってるあいつらに違和感覚えるだろうな。
なんて諦めの境地に達していると、自然と笑みがこぼれた。

「陽介、何かいいことあった?」
「どうせ、思い出し笑いだろ」


俺はこいつらのこういうとこ、好きなんだよな。
他人の何気ない変化を見逃さないっつーの?ちゃんと俺んこと見てくれてんだなって、なんか安心する。
もちろん俺だけじゃなくて、天城や里中にも向けられてるけど。

「べっつにー?」
「あ。スねた・・・悠が変な言い方するから」
「図星だからだろ。どーせ下ネタ考えてたんだろ?」
「勝手に失礼な想像してんな!」


転校する前も、転校してきてからもある程度バカはやってた。
それは表面上で、どこかよそよそしかったけど・・・今は違う、こいつらといられる時は安心して俺を曝け出せる。
本音でブつかっていける。前はそれがダセーことだって、バカにしてたけど。
俺こいつらに会えて、よかった。

「あ。また笑ってた・・・もしかして、悠とじゃれあえるのが嬉しい?」
「え・・・・?」
「ヒくなよ、本当失礼だな俺に対して!」










花村陽介憂鬱


(2012.03.01 Thank you for 10000hit!!)