「こんばんわー」

今日も今日とて、堂島家に通う俺。
通い妻ならぬ、ただの迷惑なお客なんだろうけど。
そういうの気にしない、俺を迷惑な客認定してるのはこの家で、たった一人しかいないから。

缶ビールや焼酎の入った袋をさげ、居間へ上がりこむと。
そこには衝撃の光景が広がっていた。

「気持ちいい?」
「さいこう」

思わずビニール袋を落とすと、その音で彼女が面を上げた。
いつもの笑みを浮かべ、こんばんわと告げる彼女は、いつものように可愛い。
可愛いけど!

「ええっと・・・何してるのか、聞いていいかい?」
「耳かきです。見れば分かるでしょう」

ちゃんの膝枕に横たわった、双子の兄がサラリとさも当然のように言った。
相変わらずカチンと来る言い方するな、と顔を引き攣らせつつ、落としてしまった袋を拾い上げた。


羨ましい、あのクソガキが羨ましくて仕方がない。
っていうか君らどんだけ、仲いいんだよ。
年頃でしょ?親兄弟がうざったいって思う年頃でしょ?そんなの一欠けらもないわけ?!
傍から見る限り、恋人がいちゃついているようにしか見えない訳で。

「髪伸びたね。切らないの?」
「もうちょい伸ばす」

なんて会話しながら、髪撫でて貰ってるし!
うわっ?!ちょ、悠くんそれはいくら何でもダメでしょ、身内とはいえ異性なんだから、そこにそんな顔近づけちゃダメでしょ?!
羨ましすぎなんだよ、クソガキ?!

「ひゃっ?!ちょ、くすぐったい・・・!」
「・・・・柔らかくなっ?!」
「遠まわしに太ったって言ってるよね、ね?!」

本気で頭をはたいたらしく、結構いい音がした。
ざまあみろと悪態をつきながら、彼女達が耳かきをしているソファーの近くに腰を下ろした。

「叔父さんはまだですか?」
「もう来るはずだよ。菜々子ちゃんは、もう寝ちゃった?」
「叔父さん待ってたんですけど・・・そうだ、おつまみあります?よかったら作りますよ、悠が」

彼女の膝の上で頭を回転させ、名指しされた彼は、不満げな顔を上に向けた。

「何で俺が・・・」
「残り物があるって嘆いてたじゃない?」
「めんどくさい」
「耳掻きしてあげたでしょ、頑張って」

他人には容赦ないくせに、身内には、特に可愛い可愛い妹の頼みは、断れないらしい。
終始嫌な顔を見せたものの、台所に向かい例のファンシーなエプロンに身を包み始めた。
冷蔵庫を漁る彼の背中からは、主夫オーラが漂っている。
イケメンな上に、料理もできるって・・・・神サマってのはどこまで不平等なんだ。
小さくため息をついた俺に、足立さんと彼女が呼びかけた。

「よかったら、耳掻きしますよ?」

そういって自分の膝を指すから・・・・正直、目が飛び出そうになりました。
いやいやいや、そういうのは簡単にやっちゃあダメでしょ?!
待て。今ここで俺が説得してしまったら、してもらえないでしょ確実に!
なら今してもらって、後で説得するべきだな、うん、そうするべきだ。

「あ、いいの?」
「私でよければ!」

よろこんで!と言えるわけなく、落ち着けと数十回自分に言い聞かせ、ちゃんの膝にお邪魔した。

「ひぁ?!」

なんて声だすんだ・・・・!思わずビクリすると、彼女はフルリと体を振るわせた。

「ご、ごめんなさい。ちょっとくすぐったかったので」

知ってるかい?くすぐったいっていうのは、快感の一歩手前なんだよ。
つうか、些細なことでそれを感じるって。
そういうことになったら、ちゃんってずっと啼いてそうだよなあ。

『あ、足立さっ・・・ひあっ?!』
『ほら、声我慢しないで聞かせて?』


落ち着け俺、そんな想像したらアレが大変なことになる。我慢だ、我慢!
ピンク色になりそうな思考を押さえ込むものの。

太もも、すっごく気持ちいいし何か甘い匂い、するんだけど!
香水っていうよりも、皮膚からいい匂いして、る?
これ舐めたら、甘くて美味しいんじゃ?

収拾がつかないくらい、暴走してしまった。
そんな足立のことなど露知らず、純粋な厚意から耳掻きをしているは、悠にしたように彼の頭を撫でた。

「足立さんってくせっ毛ですね。猫っ毛っていうのかな?すごくふわふわ」

ブチンと何かがはじけ飛びそうになった、その時。


「何やってる、足立」
「ど、堂島さん!」

泣く子も黙る、鬼の形相の上司に飛び起きた。
後は想像通り・・・・正義の鉄槌を下され、痛みに蹲るしかなかった俺。
この時ばかりは、堂島さんが正しいとしか思えなかった。
何でって・・・そりゃあ、あんなことされたら襲うでしょ、普通。
据え膳だよ、据え膳!あんなの。
何で悠くんが止めに来ないか不思議だったけど・・・・堂島さんの後ろで、肩をブルブル震わせて笑っている彼を見たら納得した。


自分より、上司からの鉄槌の方がこたえると分かりきっていたからだ。
その証拠に僕は堂島家、出入り禁止一週間をくらい、膝枕をしていた彼女も、節度というものについて説教されたとか。
全てを計算したとして放置してたんだから・・・やっぱりたいしたタマだよ、あのクソガキは。

















Pink Persecution




(2012.03.05 Thank you for 10000hit!!)