デート
恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が、連れだって外出し、一定の時間行動を共にすること。
逢引(あいびき)およびランデヴーとも言う。
以上某百科事典より抜粋・・・・・ランデヴーって古すぎない?流石に鳥肌立ちました。

なぜグーグル先生ではなく、某百科事典にお伺いを立てたのかと聞かれても、特に意味はない。
デートスポットを探そうとして、単純にデートと打ち込んだら、某百科事典がトップに来たってだけで。
まあいいや、改めてグーグル先生に"デート オススメ"とお伺いを立てると、なんと回答は295万件!
現代工学の凄さを改めて肌で感じる・・・・訳ないだろ。
暇人多すぎ、絵に描いた餅って言葉を知ってるかね?
全部がノンフィクションとは言わないさ、でも300万件近くもあるんだから、砂の城と呼ぶべき妄想が混じってるかもしれないじゃないか。
俺の中での割合は2:8なんだけど。ネットを漂うなといわれたって、身近な情報源がこれしかないんだから仕方ない。
色々ボかして上司の"初デート"の雰囲気を伺ったけど・・・・・堂島さんは、堂島さんだったとだけ言っておく。

とりあえず、一番最初にでてきたページからと3、4つ開いて、もう止めた。
不特定多数のリビドーに当てられた、っつか怖いよ。

結論から言おう、2人きりの個室はよくなくて、薄暗い場所だと距離も密着して、そういう雰囲気に持って行きやすい、と。
これ男側の意見しか載ってないっしょ、これ女子見てドン引きしてんじゃねえの?
付き合う前で初デートが個室、ってのは良くないよな。会話続かなくなったら終わりだよ。
俺の場合ちゃんと会話が終わる気がしないし、関係ないけど?
厳密に言えばちゃんとは初デート済ませちゃってるんだけど、付き合ってからの"初"デートだし。

自分でもここまで女々しいとは思ってなかったけど、その辺きっちり線引きしておきたいっていうか。
人目を忍んでのお付き合いだから、たまには恋人らしく寄り添って・・・・っていうのに憧れるでしょ?
ちゃんも同じ気持ちらしくて、すんごく楽しみにしてます、って顔してたし。
ここは男して見直してもらって、惚れ直してもらうってのがいいと思うんだよ。

だからやっぱグーグル先生に頼らないで、自力で頑張るべきかな。
そういう雑誌って、書店にはないんだよな。ああ、ジュネスか・・・・・うーん、御曹司と番犬に鉢合わせない時間帯を選んで行こう。
待て待て、でもこの意見は参考に・・・待てよ、個室で2人きりってのは・・・・・・・・イカン、よくない。
別の意味でよくない、それは避けたほうがいい、俺はまだ死にたくない、けどそういうことできるなら死んでも・・・・いかんいかん!
しかしできれば、できればキスくらいは・・・・・・・前言撤回。
グーグル先生、俺は今回のデートでちゃんと初キスをすることを目標とします!



もう何も言うまい、前言撤回したのだから過去のことは気にしない。
というわけで先生の意見によって選んだ場所は、水族館。
天候に左右されない、待ち時間等ない、会話に困らない、色々なものに近寄れる、薄暗い!
ね、ほらやっぱ先生の言うことは聞いておくもんでしょ?これじゃあ夢の初キスも夢じゃないよね。
というわけで、ちゃんに提案してみたら、ものすごく嬉しそうな声でオッケイされました。
逆に罪悪感憶えたぐらいだよ、あまりにも純粋すぎて!
いやしかし、かといってここで諦めてしまってはダメだ。初キスのために、いざ!
あっという間に当日になって、お迎えに上がったちゃんがこれまた、もうかんわいいの。

悠くんが、ちゃんは俺のためにお洒落してるって言ってたのを思い出して、胸がきゅんとしたね。
うっかり頬っぺたにキスしたくなったくらい、欲目なんかじゃないよこれは!断じて違うね、だって視線集めてるんだよ。
大変不本意なんだけどね、見たくなる気持ちも分からなくもないんだけどね、でもこの子はちゃんは俺のだから。

「んじゃ、行こっかちゃん」

手を差し出す俺に一瞬ポカンとしたものの、すぐに意味を理解したらしい彼女は、はにかんで俺の手をとった。
その時の可愛らしさといったら!本当心臓に悪い、ちょっとのことで俺がどれだけ惚れ直してるか、知らないだろ。
あーあー、トロけそうな笑顔浮かべちゃって。誰にも見せたくない、割と本気でそう考えてるんだから始末が悪い。
けど最近になって気づいたことが一つ、あるんだ。
ちゃんの笑顔って、誰にでも平等じゃないんだよね。
本人はきっと気づいてないと思う。それだけあざとくて、俺が気づかないわけないし。

血縁者に向ける笑顔とお友達に向ける笑顔は本当に気づかないくらいだけど、俺といるときの笑顔ってその2つとも違うんだよね。
どれも微妙な違いなんだけど、悠くんあたりは気づいてる。
だから"目の敵"に更に磨きがかかってるんだろうな・・・・・いかん、思い出したら腹立つからやめとこう。
ともかくちゃんが俺に向ける笑顔って、なんていうかこう・・・・色気を含んでるというか、詳しく言葉にできるほど語彙力はないんだけど。
美人よりかわいい、って雰囲気のちゃんが色気を出すんだよ、ほんの一瞬なんだけど。

「足立さん?」
「え?あ・・・・うん、行こう行こう」

俺のほうがちゃんより高いから、必然的に上目遣いされるんだけど、それにしたってちゃんのあの視線・・・・あれが17歳にできる目かね。
色気ありすぎるんだよ、ふとしたときに無意識にされるからものすごく困る。
俺限定っていうことに気づいたときは嬉しいより、安心した。
あれ他の男に向けてたら、ソイツ放っておかないよ。
主に"ようすけ"とかいうジュネスの御曹司、それから同年代のガキ共。
10代後半ってやたらとそういう時期だから、怖いんだよね本当に。
何かのきっかけで暴走しがちっていうか・・・・・若いってことは恐ろしい。
その点、不本意ながら"番犬"の活躍が期待されるから、安心なんだけど。

年齢差も何のその、って思ってた俺はまだまだ青かった、というより浮かれまくってだけなんだけど。
だから勢いのまま、ちゃんの彼氏というポディションを手に入れられたんだけど。
歳の差って結構キツい、せめてあと5歳若かったら・・・・いや考えてもどうにもならないんだから、意味ないけど。

「ありがとうございます」

隣から聞こえた感謝の言葉に驚き、ちゃんに振り返る。

「えっと・・・・何が?俺そんな言ってもらえるようなこと、してないよ?」

今だってデートだっていうのに、ネガティブキャンペーンを展開していたし。
苦笑いを浮かべる俺に、ちゃんがかぶりを振った後、満面の笑みを浮かべて言った。

「水族館、大好きなんです。だから、今日本当に嬉しくて」

言えない、下心丸出しで水族館を選んだなんて、口が裂けても言えない!
冷や汗は止められないが、顔が引き攣るのはなんとかごまかせる、というか誤魔化さないとダメなとこだろ。
気合を入れろと自分に一喝し、そっかと笑みを浮かべていたら。

「足立さんはいつだって私が望むものをくるから・・・・エスパーですね!」
ちゃん・・・・」
「私限定だと、嬉しいです・・・けど」
「も、もちろん!ちゃんだけだよ!」

中学生日記じゃあるまいし、こんなことで照れて大声出すなんて、カッコ悪いすぎる。
彼女に釣られるように顔を赤らめる俺に、ちゃんは笑みを深め、繋いだ手がぎゅっと握りなおされた。

「だいすきです、透さん」

うっ、わ・・・・!なんかズクンってした、心臓がとかピンポイントじゃなくて、全身がズクンってなった。
俺だけに聞こえる声で小さく言うとか、もう誘ってるよね、それもここで名前呼びとは。
そうなんだよ、いつ名前で呼んでもらおうかタイミング計ってたんだけど、先を越されてしまった。
一瞬色気を孕んだ視線は、すぐいつもの親愛に満ちたものに、悪戯っぽい笑みに変わったものの。

これは本気で、誰にも見せたくない。
こんな顔されて勘違いしない野郎は、どっかしらビョーキだろ、いや欲目じゃなくて客観的にだよ。

「2人でいるときは、名前で呼んでくれる?これからもずっと」

照れてコクリと首を振ったのを見届け、上機嫌そのもので館内に入ると。




「か、可愛い・・・・!見て見て、透さん!」

可愛いのは、ちゃんだよ!
半野外のペンギンが展示されたフロアで、寄れるだけペンギン達に寄って、それはもう年端もいかない子どものようにはしゃいでる。

「ペンギン好き?」
「はい!あのヨチヨチ歩きとか、小さな羽をパタパタってしたり、すっごく可愛いです!」

親子のペンギンを見つけて、更にテンションを上げている。
入り口付近の水槽にも釘付けだったし、クラゲの展示も食い入るように見ていたけど。
ペンギンを始め、イルカなどの海獣が特にお好みらしい。
時間帯的にイルカのショーが近いことを告げると、目の輝きが増したんだよ、当社比30%ほどに。
待ちきれないのか、時計をチラチラ見ながらペンギンも見て、俺に話しかけて。
忙しないったらないし、普段のちゃんならこんなにソワソワすることもないだろうに。

水族館、恐るべし。というか、本当にここ選んでよかった。
足立さんとならどこでも、って嬉しいこと言ってくれたけど、やっぱ喜んで欲しいし。
きっかけは下心満載だったけど、グーグル先生にお伺いしてよかった、ありがとう先生!
これでそういう雰囲気に持っていけたら、言うことはないんだけど・・・・・・・うん、無理だね。

「そろそろショー始まりますよね、行きましょう!」

手を繋ぐより、腕を組むにレベルアップしたのは嬉しいし、やたらと近距離なのは先生様々。
いつも以上に距離が縮まっているのに、何故そうならないか・・・・相手にそういう気がないからだよね。
目が純粋な子どもそのものなんだよ、それはそれで可愛いんだけども、あの色気が姿を潜めてしまった。
残念だけど、これはこれで可愛いからよしとする。
恐らく滅多に見れないはしゃぎっぷりだから、目に焼き付けておこう。
グイグイ腕を引っ張るお子さんの頭を撫で、いい席とれるといいね、と笑うとこれまた元気のいい返事に、笑みが零れた。



ショー好例の客参加のパフォーマンス。
例によって子どもが選ばれることが、大半なのだが、稀に子どもより大人を要求する時がある。
で、ちゃんはそれに見事選ばれて、ショーを進行するお姉さんに引っ張られ、中央に行ってしまった。
どうしよう、ワクワクする姿が子どもにしか見えない。
というかあんなキレイな挙手、今時の小学生にもできるかね?ってくらい矢の如し、だったよ。
そこのお姉さん、と指された時の喜びようといったら。
大衆の視線を集めた中で抱きつかれ、硬直してしまったアラサーの気持ちを考えてください・・・・顔から火が出そうな程、恥ずかしいです。

まあでも、喜んでるからどうってことないんだけど。

『それでは、ルイくん(イルカの名前♂の3さい)からお姉さんに、お礼のキスを!』
「は・・・・・?」

おいおいおい、キスって!イルカの分際で俺のちゃんに、キスだと?!
落ち着け、熱くなるな足立透。たかがイルカじゃないか、まさか唇にキスするはずが・・・・うわ、うーわー?!した、ルイくん唇にしちゃったよ!
大好きなイルカにキスを頂き、更にお礼にとお姉さんからイルカのぬいぐるみまでプレゼントされ、ちゃんの顔は引き締まりのない顔になってしまってる。
遠くからでも見えるんだから、間違いない。
ご満悦ならいいことじゃないか、元々ちゃんに喜んでもらうためのここなんだし。
いやいや、まさかイルカに嫉妬なんかないでしょ?まさかまさか大人がイルカにって・・・・・・ねえ?

「ただいま!透さん」

笑顔に心が温かくなるはずなのに、何だこの突き刺さるような、モヤモヤするものは。
俺本気で、イルカごときに嫉妬・・・・・・してるよな、完全にしてるよな。
今だってものすんごく、嫌だよ。この場で消毒と称して、ちゅっちゅしたい、猛烈にしたい。

だってちゃんは俺のだよ?
抱きしめるのも、その瞳に映るのも、唇を寄せるのも、耳に囁くのだって、全部全部独り占めしたいんだ。
これも割りと本気なんだよね。理想は誰の目にも触れない場所に置くこと、だもん。
現実的に無理だからしないけど、手段がなければそうしちゃってるよ。

「おかえり。イルカとちゅー、楽しかった?」

皮肉のつもりはなかったけど、そう聞こえるよね。見っとも無いったらな、ないな。

「はい!でも・・・・・・・透さんと、キス・・・・・したいな」

今聞こえたセリフは間違いなんだろうか、それとも俺が望みすぎて幻聴が・・・?
確認しようと振り返ると、ちゃんの顔、首までも真っ赤にしていて。

「き、聞こえました?」

イルカのぬいぐるみで、口元を隠し、上目遣いでこちらを伺うちゃん。
それはもうバッチリ聞こえました、彼女の言動で幻覚じゃないことも分かったし。
首を縦に振ると、うわああと小さな奇声を上げ、ぬいぐるみを胸に抱いて蹲ってしまった。
照れって伝染するよね、俺も顔が熱い、手扇したくなる程度には熱くなってしまってる。

不意打ち過ぎるでしょ、っていうかこれだけで機嫌よくなるって単純だね、俺も。
ちゃんを腕の中に引き寄せると、人が沢山いますから!と慌てたから、少し距離を置いて視線を促した。
ショーが終わり、客は観覧席から引き上げている途中で、こっちには見向きもしない。
加えて調教師のお姉さんもさっさと引き上げたし、唯一見ているとすればイルカたち。

「イルカなら気にならないでしょ?」

沈黙して体重を預けるってことは、肯定だよね?

「僕もちゃんとキスがしたい」

耳元で囁いて、抱きしめていたルイくんの分身、もといイルカのぬいぐるみを抜き取る。
ちゃんが一瞬悲しそうな顔をするから、やっぱ憎たらしくて。

「コイツなんかより、俺を見て」

交わったアイアンブルーの瞳は、今まで見たことのない色、欲情をちらつかせていて。
俺だけにしか見せない表情に、鼓動が高鳴っていく。キスも知らないガキのように。

ちゃん」

好きだ。すごくすごく好き、大事にしたい、いつまでもずっと傍にいたい。

「透さん」

君が俺の名前を呼べば、自分の名前がとても大事なものに思えてくるから、不思議でならない。
君は俺の一で、特別。ちゃんのためならどんなことでもできる、どうしようもなく好きなんだ。
って言葉にしたらドン引きされたら・・・・恐らく立ち直れない。だから今は行動で示すことにする。
一番簡単で、一番勇気が必要な行動を。


「好きだよ、ちゃん」


無人の観客席、イルカたちのつぶらな瞳が向けられるなか、僕らは初めてキスをした。











YOU&I





(2012.05.17 Thank you for 20000hit!!)