俺は今、危機に瀕している。
「なんで勝てないの?!よーすけのくせに!」
「くせにって何だよ、くせにって」
聞き捨てならねえ、と口で言いつつ頭はまったく別のことを考えている。
この拗ねてる女子――彼女のは、俺の理性と本能を天秤にかけ、尚且つ本能を余裕で勝たせてしまいそうなんだ。
女の子のくせにスカートで胡坐かいたり、短いということも気にかけないで、四つんばいになって物をとりにいったり。
そういうものぐさなところで、煽られてる俺って・・・・・!
そこは若気の至りということで、見逃して欲しい。っていうか、これ俺が悪くないだろ、むしろのせいだろ。
「もう一回!」
は負けず嫌いなとこがあって、今もお遊びで格闘ゲームをやり始めたら、それはもう真剣になってしまって。
手を抜いたらそれはそれで、後で面倒なことになるし、とにかく相手をしてるものの・・・・・弱い。
そりゃそうだ、やったことがないのに勝とうとしてるんだから。
分からなーい、とか言って近づいてきて甘えてくれたらそれこそ女子らしいのに。
まあ、の性格じゃそんなことやんないし、あざとく近づかれてもそれはそれで冷めるっつーか。
「っていうかさん、何か忘れてねー?」
「な、何よ」
胡坐をかいている自分を指差すと、ボッと顔を赤らめ、訳の分からない理由を連ねてテレビに向き直った。
まったく忘れてないな、そしてなかったことにしようとしてる。
どうせ連敗するだろうと予想していたから、一つ賭けをした。
10連敗したら、膝の上に座るっていう賭けを。
だから手も抜きませんでしたよ、当然だろ、そういうことしたいお年頃だもの。
それをなかったことにするなんて・・・・そう簡単に行くか。世の中はそう甘くないぞ。
本能が勝ちそうになっているのに、を膝に座らせたら最後、一気に傾きそうなんだが。
「約束破るんだ、ふーん、へえ、そう?」
「・・・・っ!わ、分かったわよ、座ればいーんでしょ!」
もう済ませるトコまで済ませてしまったのに、いつまでも初心なところが可愛いくてたまんない。
立ち上がって腰を下ろせば良いものの、ものぐさなこいつはやはり四つんばいで近寄り、にじにじと体を移動させるから。
途中でスカートが捲くれて、下着が見えた。白いフリルとサテンのようなピンクが大変、眩しい。
「見た?!」
「うん、バッチリ」
いや、そんな怖い顔したって俺のせいじゃないでしょ。
ってうか・・・・・・・・・・もう我慢できません。
「え、ちょ、よーすけっ?!」
体勢を変えて、頭は打ち付けないよう気を配りながら、素早くを押し倒し、そのまま口付ける。
ちゅ、ちゅと触れるだけの軽いキスを次は下唇を甘噛み、ペロリと舌で舐めてやると、鼻を抜けるようなやらしい声が。
べろちゅーもいいけど、は唇が触れるのが好きらしい、っていうかリップ音?
いきなりべろちゅーかましたらぶん殴られるけど、リップ音響かせてちゅっちゅしとけば、殴られない。
少し長めにキスを終え、顔を離すと頬を赤らめ、目をとろんとさせて、肩で息をしているの姿。
鼻で息しろっていってんのに、まだ上手くできないらしい。
「も・・・・バカ」
赤い舌をちらつかせながら言うもんだから、天秤が一気に本能に傾いた。
「バカなのはだっつーの」
「ええ?!誰のせ・・・いっ・・・んむっ・・ふっ」
乱暴なのに、全然怖くない。だって目が手つきがすごく優しいから。
私がキス中に息継ぎができないことを知ってるから、途中で必ず唇を離してくれる。
たっぷり酸素を取り込む間は、口の傍に、頬に鼻先に、瞼にキスの雨。
文句を言おうと口を開いたら、待ってましたとばかりに舌を絡めとられ、深く深く口付けられる。
酸素が足りないからなのか、体中が熱くてたまらないからか、頭がクラクラして、何も考えられない。
恥ずかしいし、このまま続けたらセックスになるから、嫌なのに。
陽介とのセックスが嫌なんじゃなくて、足腰立たなくなるまでされるから、嫌なの!
とにかく、このままキスを続けるのはよくないことなのに、頭じゃ分かってるのに。
歯列と歯茎の境目をねっとりと往来する熱。
気持ち良くて、なのに物足りなくて、意地悪しないでと舌をつつくと、激しく絡めとられ。
吸われ、擦られ、どちらのものか分からない唾液を飲み下す。
「よ・・・・す・・けぇ」
いつの間に涙を流したんだろうか、頬を伝う冷たいそれは、陽介の指に拭われる。
ちゅ、ちゅと音を立てて離れる唇。名残惜しいと言わんばかりに、ツイと銀糸が2人を繋ぐ。
「ごめん、俺あんま余裕ないから」
唇から首筋へと移動する唇に、ぴくりぴくりと体が振るえ、太ももをまさぐる大きな手に、熱が顔に集中するのを感じる。
全然、これっぽっちも止めてくれる気配はないらしい。
その証拠に垂れ目なハズの目元が、キリッと釣り上がってしまってる。
それはそれでカッコいいし、きゅんってするし、いいんだけど足腰立たなくなるのは、どうにかしてほしい、本当に。
プチンという音と共に、胸元の圧迫感がなくなり、はっとする私の目に飛び込んできたのは
お気に入りのピンクのブラジャーがセーラー服と共にたくしあげられているところで。
「よ、よーすけ!」
「なに?」
摩るように胸を揉まれ、あられもない声が迸りそうになるのを、唇を噛むことで必死に押さえいると、不満げにこちらを見やる陽介と視線が交わった。
「声、我慢しなくていいって。誰もいないし」
つーかの声聞きたい、と手は止めずにまた触れるだけのキスを送られて。
溶けそうになる思考をかき集め、重たい両手を持ちあげては陽介の首に絡めた。
「や、やさしくしてください・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「よ、よーすけ・・・・さん?」
「無理」
「ええ?!何で!」
「そういうの逆効果だから。俺のこと、あんま調子に乗せないでくんねえ?」
なけなしの勇気も虚しく、終わったあとに拗ねる私を、必死に宥める陽介がいたとか、いなかったとか。
kiss me
(2012.05.17 Thank you for 20000hit!!)