癪に障る、フラストレーションが溜まる、腹が立つ、苛々する。
あとどんなことあるっけ・・・・あ。マジムカツク。
・・・・・やっぱなし、今のはバカっぽいから撤回。
「足立さんは部活何やってたんですか?」
「僕は特にやって無くてさ〜?」
俺が色々な言葉を捜してしまう程、苛ついているのはこの2人が醸し出す、和気藹々とした雰囲気だ。
双子の妹が笑っているのは、それこそいつものこと。
俺が許せないのは、その隣でずっこけ刑事を演じている腹に真っ黒いものを抱えた、大人。足立透だ。
「悠くんは部活、決めたのかい?」
寒気がする。背中一面鳥肌が立ってるに違いない、今ぞわっってしたから間違いない。
へらって笑っても俺は誤魔化せない、というかこいつ俺だけには腹の中を見せてくる。
今だって、笑いながらも目ではお前の事なんかちゃんがいなきゃ聞くかよバーカ、つかどっか消えろ邪魔すんなガキと言っている。
被害妄想?そんな訳がない、両親に色々なところに引っ張りまわされて、色々な人間を見てきた。
それこそ、同じくらいの年齢から大人まで。少し喋ったら、そいつがどんな奴か大体分かる。
それに、この足立って奴。に一目惚れしたらしく、俺に対する嫉妬が半端ない。
もちろん、そういうことにとことん鈍いは分かっちゃいないし、彼をそういう対象で見てもいない。
別にに彼氏が出来ることに不満は無い、むしろいいことだと思う。思うが・・・・足立は嫌だ、断固拒否する。
今の時点で、容姿にしか惚れてない足立は信用できない、それこそ都合のいい肉体関係になんて思ってるかもしれない。
もし、思ってなくて本気でに惚れて、一生大事にしたいとか思ってても、嫌だ。
俺はが心配なだけなのに、その身内にまで嫉妬までするってどういうことだ。
いくら仲がいいったって俺たちは双子、兄妹なんだ。恋人関係になるでもないし、むしろ大事にする部類だろ?
「悠?聞いてる?」
その捕食者側に立たされているとは知らないが立ち止まって俺に振り返る。
腰に手を当て仁王立ちをし、不機嫌そうに口を尖らせている。
いつまでも足立の質問に答えようとしない俺が、まったく話を聞いていなかったと判断したらしい。
何も応えないのも大人気ない。が、素直に応えるだけじゃあイライラしてる俺がバカみたいだ。
それなら・・・・足立にも、俺が感じるような苛立ち覚えてもらおうじゃないか。
「俺バスケ部に入ろうと思って。マネージャーも募集してたみたいだし、がマネージャーやればいいだろ?」
「え?でも、私そんなバスケ詳しくないよ?」
「人数も少なくて、サークルみたいな扱いらしい。ルールなら簡単だし、すぐ憶えられる。それに」
言葉を切って、の体に視線をやりポソリと一言。
「適度な運動しないと、太るぞ」
思春期女子、もとい女子永遠の課題であるダイエット。
特に気にする10代後半なら、この一言に食いつかない訳が無い。
ま、の場合もうちょい太ったほうがいいと思うが。
しかしそのちょっとが油断に繋がるのだと、過去散々、それも母さんまで交えて説教されたことがある。
俺の言葉を聞き入れないのに、ポっと出の刑事の意見を聞き入れるはずがない。
案の定フォローするように細いくらいだよ、むしろ太ったほうがいいよ?なんて言ってるが、聞くはずが無い。
「うん、やる。絶対やる」
「決まりだ。明日見学行こう・・・ってことは、毎日行き帰りも一緒、ってことだな」
「何よ。ご不満ですか、お兄さま!」
俺のセリフでようやく事の重大さを理解した足立。その時の顔ったら。
最高だった、最高にいい表情をしてくれた。
「いーや?が悪戯しなように見張るのが、兄の務めだからな」
「子どもじゃないんだから!もう悪戯はしないよ・・・悠にしか」
和気藹々とした空気は、目の前の番犬に奪われてしまった。
むきになってるちゃんも、子どもっぽくて可愛い・・・・・隣の番犬がいなければ、の話
本っ当、腹立つなこのガキ。どこまで邪魔すりゃ気が済むんだ、本当に!
ちゃんの中じゃ、俺の位置づけは悲しいかな、ただの知り合い。
まだ会ってから1週間しか経ってないよ、経ってないけどもっと仲良くなりたいって思うのが普通じゃない?
それに、学生と社会人じゃ生活リズムが合わない。
偶然を装って、今日も学校帰りで会えたって言うのに、なんで後からおいかけてくるかね、番犬君が!
俺とちゃんが楽しげに話しているのを、指をくわえてみてるだけならよかった。
散々苛立ってくれるのも面白かった、だからって手のひら返したように噛み付くかね・・・!
敵認定されるのは、重々承知だけどここまで・・・・・やるな。
俺と似ていることから考えたら・・・・悲しいかな、納得できてしまう。
大人気ないことも分かっているが、そこはどうしても譲りたくない。
理由は簡単、ちゃんと彼女になって、あれこれやりたいからさ!
といっても、彼女の意思を無視してなんてことする訳も無い、有り得ない。
だってちゃんが大事だから。
あー、俺本当どうしちゃった訳?こういうキャラじゃなかったでしょ、方向転換しすぎ。
仕事も真面目にやっちゃったりして、さ。でも堂島さんが面食らってたのは傑作だった。
っていっても、手抜けるトコはとことん抜いてるけど。前に比べたら真面目ってこと。
どうしてそんなこと始めたかって?決まってる。彼女に、鳴上って子に釣り合いたいから。
恋の力は偉大だ、なんて少女漫画みたいなこと考えつつ、どうすれば番犬君に邪魔されずちゃんと仲良くなれるか
まあ、とりあえず。
目の前で楽しそうに兄妹喧嘩してる2人を引き離すことから、はじめようか?
「ほらほら、喧嘩しないの」
「「してない!」」
はもった2人にどこまで、仲いいんだと顔を引き攣らせていると、悠くんがニヤっと笑った。
このガキ、どこまで大人をバカにしたいんだ、これだから捻くれた奴ガキは!
それに比べ、大人気なく喧嘩していたことを恥て頬を染めてるちゃんの可愛さといったら・・・!
心臓が締め付けられる。ちゃんが色々な表情見せる度、苦しくなるとか・・・中学生か、俺!
中学生でもこんな想いしなかったよ。
むしろ俺をこんな気持ちにさせるのは、最初で最後、ちゃんだけだ。
「あの、足立さん?」
「え?・・・・わっ、ごめん!」
気がついたら、ちゃんの髪を触ってた。日に透けて銀糸のように見える、綺麗な髪。
何やってんだ、俺。つーか、キョトンって顔しないで、キスしたくなる、キスしたくなるからマジで!
「仕事、あるんじゃないですか?叔父さんに大目玉食らっても知りませんよ」
俺を現実に引き戻したのは、敵にして双子の兄。
大分冷たい目で俺を見てる、目が何触ってんだよと物語っている。
すまん、ちょっとした出来心だから許して欲しい。
口には出さないけど、殊勝に謝った俺にちゃんが不安げな表情を浮かべた。
「ご、ごめんなさい!私が引きとめたから」
「いいよ。僕もちゃんと話せて楽しかった。もちろん、悠くんも」
番犬は不快なものを見るような目つきだ。社交辞令も受け付けないってか。本当、いつか潰してやるから覚悟しとけガキ。
「あ、そうそう。来週末家にお邪魔するから、よろしくね」
「はい、お待ちしてます!」
疲れが吹き飛んだ。天使だ、天使の笑顔っていうんだこういうの。
天使の後ろには、地獄の使者がいるけど全然気にならない、むしろ気にしたら負けだ。
天使と同じ顔なのに、どうしてそこまで地獄の使者みたいな表情できるかね?
ああ、そっか・・・・今まで周りに俺みたいなタイプ、いなかったのか
だから手こずってるって訳、ね。なら、社会勉強させてあげるのが、大人の務めでしょ?
「じゃあ、また。気をつけて帰るんだよ、2人共」
本当はちゃんだけに向けたいんだけど、そこは我慢しておくよ。
俺これでも、大人だからね。