「それでね、こないだ足立さんが」
「ふーん。ようやくも、ねぇ?」
「何んでニヤニヤするの・・・あいちゃん」
「別にい?悠も苦労っていうか、妹離れにするわね・・・はは、あはははっ」
「何で笑うのー?!妹離れってなに?!」
「あーあっ傑作!」
GW初日はあいちゃんの家にお泊り。
ちなみに、悠お手製の晩御飯を堂島家で食べた。あいちゃんは微妙な顔をしながらも、おいしいと褒めていたけど。
それはともかく、今あいちゃんが言った妹離れって・・・どういうこと?
問い詰めても、あいちゃんは笑うばかりで教えてくれる様子は皆無。
「そんなに面白いことなの?」
「当たり前じゃん!ね、。あんた初恋まだなんでしょ?」
「うん・・・変、かな?」
「変じゃないけど、遅いのは確かね。私幼稚園の頃だったわ」
loveとlikeの違いが分からない。
一度父さんに、男の子を好きな気持ちと、お父さんを好きな気持ちってどう違うの?そう聞いてみたら、盛大に泣かれた。
今じゃ聴く人物を間違えたと分かるが、小さな頃じゃ分からない・・・無知って恐ろしい。
とにかく、私は生まれてこの方異性に恋愛感情を抱いたことがない。
女の子がすきなのかと思ったけど、そうでもない。家族や友人に抱く特別と、どう違うのかまったく分からない。
「遅くたっていいじゃない、人それぞれなんだし?」
「あいちゃん・・・やっぱり優しいね」
「べ、別に!そんな小さなことで落ち込むことなんかないでしょ!」
不器用で意地っ張りだけど、そこも彼女のいいところ。
こういうとこに気づいてくれる男の子と、付き合って欲しいな。
一条君は・・・うん。色々なトコに気づいてくれるから人柄的に合格だけど、彼は千枝ちゃんが好きで・・・
そういえば、訊いた事なかった。片想いって辛くないのかな?
ストレートに言葉に出すと、あいちゃんは目を見開いた後黙り込んだ。それも少し辛そうな顔をして。
やっぱり訊くんじゃなかった、そう後悔して謝ろうと口を開いたら恥ずかしそうに頬を染めた。
「まぁ、辛いことあるど嬉しいことも多いんだよね、一条君の顔見たり喋ってるだけで幸せ」
「・・・・恋って凄いね」
「なぁに言ってんの!アンタもそうでしょ?」
「どゆこと?私、初恋まだだよ」
首を傾げる私の肩をひっ掴み、突然真剣な表情でじっと見つめてくるあいちゃん。
気おされつつ、なんとなく笑ってみるとはぁ、とそれはもう盛大なため息をつかれ、ついでに額に手を当てて天を仰いでいる。
Oh my god!!そう言わんばかりの仕草に、何事と目を瞬かせていると、彼女が静かな声でポツリと話し出す。
「最近、アダチサンの話よくするわよね?それも楽しそうに」
「うん。だって足立さんと話すの楽しいから」
「メールだけじゃなくて、電話もよくすんでしょ?よく会いに来るし」
「うん。独り者で食べる飯はマズいだろう、って叔父さんがよく連れてくるから」
「・・・・ジュネスでよく会う、とも訊いたけど?」
「うん。家まで送ってくれるよ」
あいちゃん、そんな顔したら一条君幻滅するよっていう位の表情をした。もちろん、彼女には言ってない。怒るからね。
でも怖くて後ずさったけど、肩を掴まれたままだから距離は取れなかった。せめてもの反抗にと目をスイと逸らすと。
「冷静に考えてみな。社会人と学生が生活時間合う訳ないじゃん?そんな頻繁に会えるもん?」
「・・・・確かに」
「足立さんが、に会いに来てんの!」
視線をそらしたままのがこっちを向いた。驚いたようで目を軽く見開いて、無表情になってしまっているけど。
ようやく分かったか・・・ため息をついたけど、は予想の斜め上を行ってくれた。
「・・・やっぱ気にしてくれてるのかな」
何故そこで悲しい顔をすんの?!ここは嬉しそうにするか、恥ずかしそうにするか、否定しまくるか、どれかでしょ?!
あーもう?!私が面倒くさいの嫌いだって知ってるのに!
「何かあったんでしょ。言いなさい」
何で分かった、という風な顔されたって顔にでてるから嫌でも分かるでしょ。
黙り込んだを、私にしては根気よく待っていると、妙な人に絡まれて、助けてくれた。
遠まわしな言い方しかしなかったが、要約すると、足立さんに迷惑かけてるかもしれないって、不安になってんだ。
で、凹んでるって?この子、どこまで鈍いんだろ。そのアダチサンって人は、に迷惑かけて欲しいと思うんだけど。
今はややこしいから言わないけど。またため息が出た。どうしよ、私何回幸せ逃がしてるだろ・・・そんなことを考えながら
の額にデコピンをした。
結構いい音がして、は額を押さえて恨めしげに私を見上げる。
「なな、何するのー?!」
「だけじゃなくて、悠もだけどさ。あんたら、もっと他人を頼ったほうがいいんじゃない?」
「え・・・・?」
「迷惑かけないってのも大事だけど、まだ私ら子どもなんだし、大人にもっとわがまま言えば?もう言えなくなるんだし」
「あいちゃん・・・・」
「つーかさ、そういうの寂しい。信頼されてないかも、って思っちゃうじゃん」
「そんなんじゃないよ!」
「分かってるから・・・煩い」
「ご、ごめん!」
また耳がキインとするような近さで、謝られを睨むと、慌てて口を塞いだ。
「素直さがうりなんでしょ?捻くれた誰かさんの分も素直になってやんなきゃ、ね?」
「あ、あいちゃん・・・大好き!」
「うわっ」
ベットのスプリングが2人分の衝撃を受け止め、ギシギシ耳障りな音を立てた。
苦しいし、首にぶら下がるようにくっついて離れないスッポンは煩いし・・・・でも、悪い気はしない。むしろ、嬉しい。
心閉ざした私の中にズカズカ入ってきて、大好き発言する割には、変なとこで遠慮するし・・・ちょっと、いやかなり寂しかったし、ムカツいた。
私の存在って、の中ではそんなもんなのかって。
でも、こうやって言ってみたら分かってくれたみたいで・・・まぁ、今濃厚な愛情表現を受けてる最中だけど。
私達の友情が深まったところで、本題に戻る。
アダチサンが気になって、むしろ恋しかけてるをどうやって目覚めさせるか・・・が抱いてる感情が恋だよ、なんて言ったて分かんないだろうし。
自分で"恋心"に気づくのが、一番。
「アダチサンと話したり、メールしたりすんの楽しい?」
「うん?」
「アダチサンが自分以外と、自分以上に仲良くしてたらどう思う?」
「え?うーん・・・」
「あんまり嬉しくない、のね?」
「・・・・・た、ぶん・・・?」
「よく会うって言ってたよね?会えなかったりしたら、どう?」
「お仕事大変だから、体大丈夫かなって・・・・・あと」
「寂しい、って思うの?」
「少し、ね。よく分かるね、あいちゃん!」
凄い!とはしゃぐに、アンタ以外なら誰だってわかるっつーの!と心の中でツッコミつつ、これはもう恋じゃん。と納得した。
多分、というか十中八九アダチサンって人もが好き。
で、叔父さんの部下だって言うし悠も知ってるみたいだし、変な人じゃないのも確か。
を任せるには十分だと思うけど、肝心の本人がこの調子じゃ・・・・先は遠いな。
そのアダチサンが急いて、シくらなきゃいいんだけど。
ついでにこの子、モテるし。まぁ、それは悠とか同じクラスのジュネスの息子が牽制してるけど・・・いつまで持つか分かんないし。
どうしてやろう・・・・それにこの子、好きだって分かったら意識して逃げまくりそうだし。
もっと詰めてやりたいけど、これ以上詰めるとやぶ蛇になりそうで。悩んでいると、がポソリと言った。
「あのさ、あいちゃんは男友達に抱きしめられて、ドキッてなったことある?」
唖然とした。何、その質問。っていうか、誰かに抱きしめられ・・・・ジュネスかジュネスの息子か!
ミイラとりがミイラになった、ってヤツ?!
「もしも、だから!あいちゃんが一条君一筋なの知ってるからね!」
何も言わない私が怒っているかと勘違いしたのか、焦りまくる
その相手がアダチサンだったら・・・否、この際ジュネスだろうがを大事にしてくれるんだったら誰だっていい。
「友達から恋人になっても、普通でしょ?変なことはなにもないじゃん」
「で、でも!相手は友達としか思ってないんだよ?」
「なら、意識させりゃいいのよ」
「つ、強気だね」
「当たり前よ。好きな人に自分を見て欲しいって、思うのは自然なことなの!」
「そ、そう、かな・・・?」
「わがままになるのが、恋愛なの。してみりゃ分かんの」
「あいちゃんて、大人だね」
「よりはね」
そう悪戯っぽくウインクするあいちゃんは大人びていて、綺麗だった。
aaa
楽しい大型連休も終わり、中間テストのピリピリとした空気が漂い始めた金曜日の夜。
休憩にと、台所へ向かってお茶を飲んでいるときだった。
ポケットに入れたままの携帯が震え始めた。そういえば、勉強の邪魔になるからとマナーモードにしていたのを思い出しながら、携帯を取り出すと。
「あ、足立さん!」
ディスプレイは足立透を表示していて。ドキッとしたけど、これはあいちゃんに変なこと言われたからで、意識するな鳴上!
そう言い聞かせ、これ以上待たせないようにと通話ボタンをタッチした。
「も、もしもし」
「もしもし?足立です。ごめん、勉強中だったよね?」
「いえ、丁度休憩してたとこなんで・・・!」
「そっか。はかどってるみたいで、安心したよ」
「一応、予定範囲は終わりました。油断できないですけど、ね」
私の言葉に足立さんが微かに笑う。その声が少し擦れていて、ちょっとカッコイイなって。
じゃないでしょ!彼は私が真面目に勉強してるか、確認してくれただけで!そんなカッコイイとか、そんな!
自分でも何に言い訳してるのか分からなかったくらい、意味不明なことを並べ立てていると、受話器の向こうがえっと、と切り出した。
「来週、中間テスト終わってからの日曜日。あいてる?」
「えっと・・・5/15ですね?はい。どうかしましたか?」
「この間、ちゃんが見たいって言ってた映画・・・あのチケットもらってさ。で、よかったら僕と、どうかな?」
映画はアクションものが大好きだと、前に話して盛り上がったことを憶えててくれたらしい。
もちろん、返事はイエス。私でよければ、と返すと一瞬間があったものの、そっかよかったよ!と嬉しそうな声が聞こえて。
「待ち合わせや時間のことは、また連絡するよ。今はテスト、頑張って」
「はい。わざわざ、ありがとうございました」
「いや・・・う、うん・・・じゃ、また」
「はい。おやすみなさい」
電話を切って、ため息をついて携帯を握り締めた。
「よっし!もうちょっとやるか」
テストを乗り切れば、見たかった映画が見える!
目の前ににんじんぶら下げられた馬のようだけど、でもそれだけで頑張れ・・・・・・・ち、違う!
足立さんと一緒に出かけるのが嬉しいんじゃなくて、映画、あくまで映画だから!
いや、でも彼とお出かけするのが嫌なんじゃなくて・・・・・
「・・・・唸っても、記憶は定着しないぞ」
いつまでたっても部屋に上がってこない私を見に来た悠が、膝を抱えて唸っているのを見て冷めた声で言った。