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kiss!kiss!!kiss!!!



(花村陽介の場合)


「つっかれたー」


それでも、バイト終わりの達成感が好きで辞めようとは思えなかったり。
好例の伸びも終わったし、帰ろう。
夜も遅いし、明日も学校・・・あ。明日モロキンの進路相談じゃない?!
ど、どうしよう何も考えてないや。絶対いじめられる、説教1時間コース?!


「お嬢さん?一人でお帰りですか?」


ふと気づくと、見覚えある顔が自転車にもたれかかって、両ポケットに入れた手をヒョイっとあげている。
陽介だ、見間違うことない陽介だ。何回瞬きしても、陽介にほかならない。


「よよ、陽介?何してるの?」
「お迎えだよ、の。ほら後ろ乗れよ?」
「わた、し?」


何でわざわざ私を迎えに?それより今日バイト休みだったんじゃ?
それより何より、どうして陽介がここに?


「ははっ、すっげー顔」
「もともとすっげー顔ですよ」


可笑しそうに笑うから、口を尖らせて言い返すと今度はちょいちょいと手招きをされ、なんとなく近寄る。
なに?と口を開くつもりが、思った以上の力で引き寄せられ陽介の胸に衝突した。
鼻がつぶれ、ぶふっと間抜けな声が出た。若干涙目になって、鼻を押さえ痛いと訴えかけるため、顔を上げたら首が痛い。
何で陽介こんな背高いの?じゃなくて、私が小さいだけか・・・
日本人の平均身長-5cmという事実に凹んでいると、両頬が手で包み込まれた。その手が冷たくて、思わず肩を竦めようやく気がつく。


「ずっと、待っててくれたの?」


じっと陽介を見つめると、ふいと顔を逸らし片腕で覆ってしまう。
これじゃあ、顔が見えない。逸らした方に近寄ろうとすると、逆に腕の中に閉じ込められてしまって。
顔に熱が集中するのを感じ、離れようともがくもののビクともせず。


「陽介、ここ外!は、離して!」
「誰もいねーって。あー暖けぇ」


そう言われたら、抵抗する気もなくなってしまって・・・それに、嬉しい・・・し?
この間、バイト終わりで一人帰るのを気にしてたから、迎えに来てくれたんだ。出待ちまでしてくれて。
こういう陽介の優しいところが、大好き。
愛しさが溢れて、ここが外だということもすっかり忘れ、陽介の背中に腕を回して抱きしめると、なぁ?と上から声がふってきて、ん?と答える。


「ご褒美ちょうだい?」


口を開けばガッカリ王子。誰がつけた二つ名だろう・・・すっごく的を得てるから盛大な拍手をしてあげたい。
でも頑張って待っててくれたから、聞いてあげないこともない。
何?と首を上げると、陽介はちょっと恥ずかしそうに頬をかき、視線を彷徨わせていたが、決心がついたらしく。


「キス、してくんね?」
「ああ、そんなこと?いいよ」


チュとリップ音を立てて、頬に軽くキスをする。
その瞬間、キスされた頬を手で押さえ茹蛸のようになって、あわあわと口を開閉させ始めて。
そんなに恥ずかしいことなんだろうか?と首を傾げつつ、自転車の後ろに跨り


「早く帰ろうよー、寒い」
「お、おおお、おおおおう!」


何で恥ずかしがんねぇんだよの奴!俺だけかっこ悪くね?いや、俺の態度が正しい・・・よな?
え、何?スルーするとこ?いやいやいやいや、スルーしちゃダメだろ?!
軽くパニくりながらも、なんとかチャリに跨って漕ぎ出そうとしたその時、後ろから両腕が伸びて、腰に巻きついた。
漕ぎ出そうとペダルに足をかけたまま動けない俺に、後ろの彼女は小さな声で呟いた。


「は、恥ずかしいからスルーしてください」