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俺の彼女を紹介します









稲羽市のお隣沖奈市。地方の寂れた繁華街を眺めつつ、ここ半年の出来事を振り返っていた。
何より大きな出来事は、妙な事件に巻き込まれたことと・・・

「お待たせしました、悠さん」

凛とした声色に振り返ると、一人の少女が笑みをたたえ、そこにいた。
どこにでもいるような、それこそ雑踏に紛れてしまえば見失うような、至って普通の少女。
それが俺の彼女、だ。
何時の間に、と呟く前に彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ言った。

「そうですね。悠さんが改札口から出てくる10分前には着いていましたよ」
「・・・・何で俺が10分待たなきゃいけないんだ」

呆れる悠に、が携帯を取り出して画面を彼の目の前に突きつけた。

「約束の時間ぴったりですよ?それに待っている間、少しは早く会いたいと思ってくれたでしょう?」
「思わないことはなかったけど、それほど」
「ふふ、相変わらずクールですね?」

微かな笑みを浮かべると、は定位置の右側に回り、そうあるのが当然のように悠の右手をとり、歩き出す。
ふわりと長い髪がゆれる度、甘い不思議な香りが鼻腔を擽り、離れていることができなくなる。
香り一つでバカらしいと思うだろう、けれどこれが驚くほど心地よくてクセになる。
何の香水を使っているのか聞いてみたものの、は嬉しそうに笑うばかり。

『この香りが恋しくなったら、私に会いに来て下さい』

それはありがたい予言のように、悠の中に印象深く残っている。
すると繋がれている手一瞬力が込められ、ふふ、との涼しげな笑い声に悠は右隣に視線を落とす。

「私のこと考えていたでしょう?」

図星ですとも言いたくなくて、いやと首を微かに振って視線を逸らすものの、は益々嬉しそうに笑みを深めるばかり。
沖奈の女子高に通う17歳の女子高校生。
天城のようにおしとやかな美人でもない、里中のように元気一杯の可愛らしさもない。
普通。を表現するにはコレ以上の言葉はない。

どうして好きになったのか、と聞かれれば返答に困る。
いつの間にか隣にいるのが"当然"になったから、としか答えられない。

「そういえばこの間、悠さんのことを紹介してくれないか、と言われました」

曰く、自分は有名人らしい。花村と2人セットで、格好いいと話題なんだとか。
そう言われて悪い気はしないだろ。

「それで紹介したの?」

どういう対応をしたのか尋ねると、は迷惑そうな表情をし、栗色の瞳を細めた。

「あれは一件無害に見えて、老若男女を手玉に取る鬼畜外道の極みだから」
「ちょ、ちょっと待て!」
「何か間違えたこと言いましたか?」

ケロリとした顔で小首を傾げても、今の発言は見逃せるような軽いものじゃない。
思わず立ち止まる悠に、それからとは何事もなかったように続きを話す。

「どうなっても責任は取れない、と青い顔で話したらそれはもう、丁重に辞退していきました」

その時の光景が脳裏を過ぎったのだろう、クスクスと上機嫌に笑うは・・・まあ、可愛い。
可愛いが理不尽だ。大きなため息の一つや二つつきたくなるほどに。

、あのな・・・」
「モてる人が彼氏になった、という私の心情も考慮してくださいね」

私、嫉妬したら何するか分かりませんよ?と胡散臭い笑顔で言い切って、繋いだままの手に力が込められ、悠はビクリと肩を揺らす。

「悠さんと付き合えるのは、私ぐらいです」

自信たっぷりのに、悠が目を瞬かせていると彼女自ら手を離し、悠の行く手を阻むよう立ちふさがった。
艶やかな黒髪がふわりと広がり、瑞々しく鮮やかな唇が何を象るか、目が離せなくなる。

「私と付き合えるのは、悠さんだけですから」

どうにかなる要素は皆無なので、早めに潰したって問題ないでしょ?
むしろ潰して当然と言わんばかりの口調で断言すると、再び右側に収まり手を繋ぐ。
熱烈な愛情表現に眩暈がしそうだ。

ここは一言言っておくべき場面なのだろうが、と立場が逆なら彼女と同じことをするだろうと思い直し。

「そうだな」
「そうですよ」

「何ですか?」
「好きだよ」
「はい。私も好きですよ、悠さん」

狂ったように上がる心拍音を意識してしまい、悠は照れを隠すように顔を背ける。
それを見たが嬉しそうに笑い、腕にしがみつくように寄り添った。