「あ、秋瀬くん!これ!」
「ん?これは・・・・ラブレターってのでいいのかな?」

なけなしの勇気を持って、渡したラブレター。
意中の彼は驚いた表情をしたけど、すぐにいつもの・・・ううん、違う。
申し訳なさそうな顔をして、言った。

「ありがとう。でも、ごめんね?僕、好きな人がいるから」

手紙すら受け取ってもらえず、あっさりと振られてしまった。
踵を返して歩いてゆく彼は、私が誰であるかも知らないだろう。
だって私と彼の接点なんて、ないんだから・・・私が一方的に秋瀬くんを見て、好きになっただけなんだから。
最初から分かってたことじゃない?
だから泣くことなんて、ないんじゃないの?

「・・っふえ・・っく」

でも涙はバカみたいにポロポロと、後から後から落ちてきて。
人生初の告白は大失敗。明日から秋瀬くんの顔、まともに見れなさそうだな。
秋瀬くんと反対方向に歩きながら、涙の痕を消そうと頬を擦っていると、さん。と鈴の鳴るような声で呼び止められた。
振り返るとそこにいたのは、転校してきたばかりの美少女、我妻さんの姿。
何で私の名前知ってるんだろう。なんて思いながら、歩いてくる彼女を待っていると、開口一番彼女は言った。

「秋瀬くんのこと、好き?」

その可愛らしい笑顔に、同性ながら見惚れていると、さん?ともう一度名前を呼ばれ、我に返り彼女の質問を思い返す。
一瞬にして理解し、結論を出した。彼女は私と彼のやり取りを、見ていたんだろうと。
どこから見られてたんだろう?でも、フられたところはバッチリ見られてるんだろうな。
思い返すとまた涙が溢れそうになって、必死で涙を堪えながら頷くと、我妻さんは心配しないで、と優しい声で言った。

「協力してあげる」
「えっ?」
「その代わり秋瀬くんを、全身全霊で好きになるって・・・誓える?」

笑顔を浮かべてはいるけど、目がまったく笑っていない。
顔が整っていることが、更に彼女の不気味さに拍車をかけている。
恐怖よりも、不気味というほうがぴったりで。少し寒気を感じながら、彼女の瞳を真っ直ぐ見据えた。

我妻さんが何を考えているか、さっぱり分からない。
今の私にハッキリしていることは、秋瀬くんにフられたこと。
彼には、意中の人がいること。
目の前の美少女が、私と秋瀬くんをくっつける手助けをすると言ってること。

そして何より私は、まだ秋瀬くんのことが好きで。
まったく諦めてもいないし、諦めたくもない。
彼の傍にいたい、彼に傍にいて欲しい、名前を呼んで欲しい、抱きしめて欲しい。


「うん・・・私には、秋瀬くんだけいればいいの」
「そっか」


この子はいい駒になる。あの秋瀬って奴を壊す、いい駒に。
そんな少女の思惑を知らない、無垢故に歪み始めた少女は、厚意から由乃に笑いかけた。
雪輝への愛故に、狂う自分を知っている由乃さえ、戦慄させるような笑みで。







盲目の、故に



(2012.02.29 write by 群青エナ For ツチヤ様)