僕には好きな人がいる。




「或くんみっけ!」

無邪気な声に思わず振り返ってしまった。誰か分かっていたから、無視しようと思っていたのに。
軽くため息をついても、彼女は太陽のように眩しい笑みを浮かべたままで。

・・・何度も言ってるだろう?学校じゃあ秋瀬って」
「絶対に、嫌!どこにいたって或くんは、或くんでしょ?」

世間ではのような仕草を、可愛いいと表現して、中にはトキメク人もいるかもしれない。
けど僕にとって彼女は、幼馴染。それ以上でも以下でもない。そしてこの関係は永遠に変わらない、多分。
断言できない理由はいくつかあるけど、一つだけはっきりしている事実がある。

「ねえ、今日もサボり?」

咎めつつ、心配を含んだような声でが言った。
サボりじゃないよ。肩を竦めると、子どもっぽい表情をさらに子どもっぽく口を尖らせ、僕を見上げた。

「可愛い顔が台無しだよ?」
「誰にでもそういうこと言っちゃうの、或くんの悪いクセだよ?」

女の子は勘違いしやすいんだから!
そうやって頬をぷくり膨らませる彼女は、小動物のように愛らしい。
思わず笑みを浮かべると、の頬が薄紅色に染まった。

「もう・・・或くんの無駄イケメン!」
「それは・・・貶されてるのかな?それとも褒めてくれてる?」
「知らない!」

は僕のことが好きだ。親愛ではなく、恋慕ということも彼女を見ていれば一目瞭然。
周囲のクラスメイト達は、僕を羨ましがる。
さんと幼馴染っておいしすぎだろ?!と高坂くんに詰め寄られたけど、僕には分からない。
ずっとが傍にいるのが当たり前になっているから、常人の思考とずれているのか。
実は高坂くんがに想いを寄せていて、近すぎる僕に嫉妬しているのか。
いいや、どちらも違う。なぜかって?それは、僕の恋慕がある人に向けられているからさ。

『秋瀬くん』
『ユッキー・・・』


僕は彼を救い出したい、狂気の権化から。
この想いがその権化と近しいものと、認めたくはないけど。

「Truth is stranger than fiction.」
「ほら出た。或くんのナルシスト独り言」
、少しは本読んだら?」
「或くん読んでくれるなら、聞くよ」


彼女が僕に向けた募るような視線は、僕が雪輝くんに向ける視線と同じで。
遺伝子の命に従うまま、女の子をを好きになれればよかったんだけど・・・僕には無理な相談らしい。
後悔?これっぽっちもしちゃいないさ。だって僕が彼を好きになるのは、愛することは必然なんだから。
だからとは友だち。僕の愛のベクトルが雪輝くんに向けられる限り、ということは永遠に彼女と友だち。

「或くん」
「何だい?」

僕の服を引っ張った彼女は、いつも笑顔を絶やさないから程遠い。
分かってくれてありがとう、僕は心の中でに感謝した。

「或くん、友だちでいてね?」
「もちろんだよ、


僕は今までにない、満面の笑みを浮かべた。









事実は小説よりなり





(2012.02.29 write by 群青エナ For ツチヤ様)