恋には色がついて見えるんだと、誰かがそう言っていた気がする。 俺の場合、恋はバラ色に見えた。 昔チビだった俺は、中学に入ってからグングン背が伸びた。 女子にモテ出したのは、ちょうどその頃から。 自分自身の何がいいのか、よく分からなかった。 成績も運動も普通レベル。顔もモデルのようなキレイさはない。唯一の取り柄は、身長が高いくらい。 友人たちはみんな、「女子はそんなお前だからこそいいんだよ!」なんて、訳のわからないことを言ってたけど……。 とにかく、こんな俺でも恋はした。 初めて恋したときは、学校生活がバラ色に見えた。 初めての彼女。初めてのデート。初めてのキス。 けれども彼女と俺は性格的に合わなくて結局すぐ別れ、俺の生活は前の色へと戻った。 それからも、何度か恋はした。 そのたびに恋がバラ色に見えたけど、長続きはしなかったんだ。 女子はみんな、俺の内面なんて見ない。俺を深く理解してくれる女子に、出会わなかった……。 でも……。 八十稲羽市にきて、俺は久しぶりに恋をした。 相手は俺と同じで、都会から来た転校生。名前は。 不思議なことにとの恋はバラ色じゃなかった。 全てを包みこむような、柔らかい日だまりの色。 「ねぇ悠、なんでそんなに嬉しそうなの?」 ジュネスのフードコートで、大好きなバニラアイスを頬張りながら、彼女が言った。 俺たち定番のジュネスデート。 フードコートではいつもがバニラアイスを頼み、俺がブラックコーヒーを頼む。 なんら変わらない、普通のデート。 だけど、俺にとってはそれが幸せだった……。 「別に。たださ、と出会えてよかったなぁ……って。 、俺さ、恋をすると世界がバラ色に見えるんだ。だけど、との恋は違った。」 「バラ色には見えなかったの?」 少し悲しそうな顔をする。 俺はそんながかわいくて、頬をゆるませて続ける。 「そんな悲しそうにするな。違うんだよ、との恋の色だけが。 との恋は、柔らかくてあったかい、日だまりのような恋の色。」 そう。それはまさに、これまでとは違う色の恋。 特別な恋の色。 「との恋色は俺にとって、たった一つの違う色だったんだ。」 椅子から立ち上がり、体を前にのりだして向かいに座る彼女の耳元でささやいた。 最後にはちゃんと、唇に不意打ちのキスも贈った。 バニラ味の甘いキス。の味がした。 彼女が真っ赤になってうつむくのを、俺は笑って見つめ続けた。 |