遠くない未来の縮図



「愛してる、だけを」

目の前の男が目を閉じて近づいてきたので、容赦なくアッパーを食らわせた。
どうやら思い切り舌を噛んだらしい。ざまぁみろ!

「お、俺にこんなことしてタダで済むと思ってるのか?!」
「私がいながら他の女とスケこましてタダで済むと思ってんの?」

冷たい視線を送ってやると、男はようやくギャーギャー喚くのをやめた。
瞳が恐怖に染まるのを確認しつつ、男の前にしゃがみ込み、ニコリと微笑む。

「そのご自慢のお顔、元に戻らないくらいぐっちゃぐちゃにしてヤローか?あ!それとも、色んな女と遊ぶためのドーグをちょんぎる?」
「えげつないな、相変わらず」

静かな第三者の声が振ってきた。本来なら振り返るはずだが、誰だか分かるので振り返る必要はない。
鼻血をダラダラ流す元彼は、大きく目を見開いた。
私は小さくため息をつき、声だけで答える。

「何?用がないなら出ってよ、現在修羅場中」
「殺人未遂現場の間違いだ。おい、お前」

氷帝学園のキングに話しかけられただけで、ビクリとし、どもりながらも返事をする元彼。
助けてくれるんじゃないか、彼の目が期待に染まりだした。
余計なことするな、との意味を込め舌打ちするが、跡部は私を無視し、元彼に近づく。
跡部を味方につけたと勘違いした彼は、跡部に縋り付き饒舌になる。

「あ、跡部さん!俺、行き成り殴られたんです、あの女に!」
「ほんとう、」

いかに自分が被害者か、事実を誇張する男。
本当吐き気がする、元彼にもだが自分にも。
どうして私が惚れる男は、サイテイ野郎ばかりなのだろうか。

「煩ぇゲスが。俺の前から姿を消せ」
「は?あ、あとべ「消せつってんだろうが」

蛇に睨まれた蛙。まぁ、跡部に対抗できる奴がそこら中にいるとは思ってない。
それにしても、ここまでダメな奴だったとは・・・・
鼻血を垂らしたまま逃げていく元彼の背を見送り、大きくため息をついた。

「跡部。あんがとね」
「あん?」
「どんだけ無駄なことしようとしてたか分かった。目ぇ覚めた」
「ならいい加減俺様の「無理だよ」

即答する私に、跡部は不機嫌そうに顔を顰める。

「だって跡部完璧だもん」
「当たり前だ。俺様を誰だと思ってやがる」
「私は欠けた人間なんだよ?欠けた人間は欠けた人間しか求めないの」
「・・・訳わかんねぇ」
「ハハッ私もー。でもね跡部?アンタのことは好きだよ」

ならいい加減、俺のモノになればいいじゃねぇか。
そうやってお前は俺の心を鷲掴みにして、スルリと霧のように消えていく。
この俺様に言い寄られて靡かない女は、この世界でぐれぇだ。

「下らないこと、考えてるでしょ?」
「煩い変人」
「その変人に惚れてるくせに・・・え、何マジで照れてんの?今更純情ぶるの?」
「うっせぇ尻軽女!」
「なぁんですってぇ?!このヤリチン!」






(この関係も捨てがたいと思いやがる俺も、末期だな)