校門で待つ時間
はぁっと息を吐くと、白い塊が生まれた。
やっぱり今日は冷えるんだ。は学校指定のマフラーに首をうずめた。
まだ4時だというのに、空は茜色に染まり、夜の気配が近づいている。
日没が早くなっているため、だいたいの部活は早めに終わってしまう。
その証拠に、いつもは賑わっている校庭も静まり返っていた。
外でこうして待っているのは寒い。
寒いけれど、季節が感じられるような気がして楽しかった。
もう一度、息を吐くと先ほどと変わらない白い塊が広がり、すぐ消えた。
「!」
その声の大きさにビクリと肩を震わせ、顔を向けると、鬼のような顔をした男が一人こちらに近づいているではないか。
同じ中学3年生にしては老けてるなぁ。まぁ、テニス部の連中もそうだけどさ。にしてもこの人は飛びぬけてる。
校内新聞部による老け顔ランキングで見事1位をとっただけのことはある。
一人納得していると、いつの間にか老け顔がすぐ側にいた。
先ほどから老け顔、老け顔と連呼しているが、決して貶しているのではない。とだけ言っておく。
「弦一郎、早かったね」
彼の名前は真田弦一郎。立海大付属中学校テニス部で副部長を務める中学3年生である。
ちなみにの彼氏でもある。風紀委員の集まりに参加していた弦一郎をここで待っていたのだ。
正確には、一緒に帰ると約束したのではなく(むしろ先に帰れといわれた)が勝手に待っていただけだった。
彼女がニッコリ笑みを浮かべて迎えたのに、弦一郎は鬼のような表情を崩しはしなかった。
長年彼を側で見てきたので、この後どういう行動に出るかも分かっている。長時間の説教だ。
更には、それをどうやったら早々に終わらせることができるのか。ということも心得ていた。
「中で待っておけと言ってあっただろう!お前は体が弱いんだ、風邪などひいてしまってっ!」
話の途中にも関わらず、はおもむろに弦一郎の頬に指をあてた。
すると彼は面白いほどビクンと反応し、言いたいことを飲み込んでしまった。よほど冷たかったらしい。
ふふふ。がニヤケ笑いをすると、当初の目的を思い出したように、再び鬼の顔をしたので、そこですかさず口を開いた。
「私が待つって思ってたんだ」
彼は「先に帰れ」と言った。けど今「中で待っておけ」と怒鳴ってきた。
矛盾点をつくと、むっとなんとも渋い声を出して黙ったかと思えば、突然踵を返した。
「・・・・・帰るぞ」
「うん。あ。手、繋いでね」
その背に声をかけると、彼は真っ赤な顔でクルリと振り返った。
やはりその顔は鬼のようだとはひっそり思った。