動き出した二人の時間
「おい、俺様が話してるんだ。こっち見やがれ」
「ご、ご遠慮いたしますっ?!い゛い、い゛だいっす!」
とある昼下がりの、とある教室の一角。
眉目秀麗を具現化したような美少年と、平平凡凡を具現化したような少女。
周囲の注目を集めるにもかかわらず、2人は騒ぐことをやめず、むしろ美少年が少女をどうにかこうにかして、自分の方に向かせようとしている。
が、少女は頑として向こうとせず、頭を美少年に捻り潰さんばかりに抑えつけられているにもかかわらず、精一杯彼から顔を背けている。
野次馬の一人の少女が、そんな二人を見忌わしそうに顔を顰め、隣にいた少女に言う。
「何でさんみたいな平凡な子、跡部様がかまうの?!」
「ちょ、跡部様に聞こえたらどうするのっ?!跡部様に嫌われるわよ!」
生憎、少女を自分の方向に向けることに必死な”跡部様”は少女たちの会話が聞こえていなかったらしい。
文句を聞いていた少女が声を潜め、不機嫌を露わにする隣の少女に耳打ちする。
「さんは跡部様の幼馴染で・・・跡部様が気に入ってらっしゃるの。昔、さんに注意しようとした会員がいたんだけど・・・
逆に跡部様に粛清されてしまったわ。お声をかけることも、近づくことも許されないのよ」
「地獄ね!」
「ええ、本当に・・・・だから、さんには近づくな、っていうのが会員の中では常識なのよ?」
そんな会話が為されているなど知らない二人は、まだ格闘を続けている。
「もう諦めてそのまま喋ったら?!」
「煩ぇ、俺様に命令するな」
「わ、分かった!分かったから頭から手離して、頭とれる!」
が叫ぶと跡部はふんっと鼻を鳴らし、腕を組んでみなこの前に立つ。
は恐る恐る顔をあげ、迫りくるソレに耐えつつ、跡部の目をチラリとみた。
「で、何の用?」
「、お前今日からテニス部のマネージャーだ」
「へぇ、私がマネージャー・・・・はぁ?!」
振り返ったとたん、跡部の綺麗な顔がグンと近づき、は一層酷いソレに襲われ、口を覆う。
「嬉しくて声もでないか、よかったな。放課後テニスコートに来い」
「ち、ちょっと、待「何や、この騒ぎ」
言いたいことだけ言って、去ろうとした跡部を引き止めようとしたところで、第三者の登場。
関西弁のイントネーション、気だるげな甘い声に黄色い声が上がる。
声を上げられた当人は、慣れてるという風に彼女らに笑みを零すと跡部とに近づく。
「んだよ忍足。今取り込み中だ、後にしろ」
「痴話喧嘩かいな?たいがいにせんと、跡部刺されるで?」
「お前に言われたくねぇ。おい、逃げるな!」
首根っこを押さえられた、子猫のごとく一旦大人しくなるが、一呼吸後は暴れ出す。
「お願い、お願いだから離して、むしろ離せあほべ!」
「その呼び方やめて、大人しくマネージャーの話を飲むならな」
「え。この子マネージャーにするん?」
首根っこを押さえられている少女の顔を覗き込む忍足。
平凡な女の子だが、潤んだ目で強気に見あげられ息を呑んだ瞬間
「バカ、覗き込むな!」
「吐く」
さっと青い顔になったのは、吐き気を模様しているだけでなく、彼女を押さえこんでいる跡部も同じ。
「待て、我慢しろ!」
「無理、もう、我慢、でき、な・・・」
「樺地!」
跡部の華麗な指パッチンに反応した樺地が慣れた動作でを抱きあげ、唖然とする忍足、野次馬をよそに女子トイレへ駆けて行った。
一番早く我に返った忍足が、釈然としない顔で跡部に問いかける。
「何やねん、あの子。マネージャーにするとか、俺の顔みて吐くとか・・・」
その問いかけに、跡部は顔を顰めて大きなため息をついた。
「、不本意だが俺の幼馴染だ。そしてあいつは美形を見ると吐き気を模様す」
「は?吐き気って・・・・・跡部とおった時はまだ大丈夫やったやないか」
「俺様には慣れてんだ、かろうじてではなるがな」
「吐き気って・・・・ちゅーかそんな子俺らんとこのマネージャーにすんの無理やろ」
自惚れているわけではないが、男子テニス部には美形と称される少年が多い。
これは紛れもない事実だ。美形が苦手という子にマネージャーなど、務まるわけがない。
「だからリハビリすんだよ」
「は?俺らのサポートすんのがマネージャーやろ」
「マネージャー業はきっちりこなす、ああ見えて優秀な奴だからな」
顔さえ見なければ大丈夫だ。と断言した跡部に、忍足はため息しかでなかった。
何故なら、跡部が一度決めたことを覆すような人間ではないことを知っているから。
(ちゅうか、初対面で吐き気模様されるって・・・・どんな初体験やねん)