傷だらけのこころ
「折原臨也に近づくな」
俺は幾度となくこのセリフを繰り返してきた。
黄巾賊の奴らにも、幼馴染にも刷り込ませるよう何度も何度も。
バカの一つ覚えと言われようが、やめることはできない。
俺がバカになることで、守りたい奴らを守れるんなら本望だ。
「もう一度言うぜ?折原臨也に近づくな」
「それ10回以上聴いたよ?紀田正臣くん」
目の前のクラスメイト、は呆れたと言わんばかりに肩を竦める。
あどけない顔にその大人っぽい仕草のギャップがまたイイ。
今時珍しい清楚系女子だと、クラスの奴らも褒めていたが・・・現時点このギャップを知るのは俺だけ!
いや、今はそんなことどうでもいい。
クラスメイトになりたての彼女を、人気のない場所に呼び出したのは他でもない。
先週末、見てしまったからだ。
が、折原臨也と仲睦まじく歩いているところを。
「が臨也さんから離れるまで、俺は何回だって言う!」
「それは無理だよ、だって私死んでるもん」
臨也さんから離れるときは、死んだときだと、可愛らしい笑みを浮かべ彼女は言う。
やめてくれ、やめてくれ。その笑顔もセリフもやめてくれ。
「それ10回以上聴いた。いいか?臨也さんは・・・」
「人類を愛してて、私だけを愛してるんじゃない。でしょ?」
「10回以上聴いたよ?」
揚げ足を取って楽しそうに笑うに、あの男の影がチラつき、俺の苛立ちはピークに達する。
「分かっちゃいねぇ!なぁ、いい加減目を覚ませよ!」
突然声を荒げた俺に、も笑顔を消し真剣な表情になる。
「じゃあ言わせて貰うよ。いい加減”誰か”と重ねるのはヤメて」
その言葉は俺を黙らせるに十分すぎた。
臨也をエスパーだと、彼のためなら死ねると、そう言った女の子がいた。
可愛そうな女の子だった。そんな女の子を俺は好きになり、自分可愛さに彼女を見捨てた。
弱虫という俺のせいで、彼女は病院にいる。今、この瞬間も。
黙ってしまった俺に、は困った表情を浮かべた。
「心配してくれてありがとう。でもね?正臣くん。もうダメなんだ」
臨也さんがいないと、ダメなんだよ。生きていけないんだよ。
そして悲しげに微笑む。何だよ、何だよソレ。そういうことは幸せそうに言うセリフじゃないのかよ!
俺なら、俺ならそんな顔させねぇのによぉ・・・
「臨也さんがこっち向いてなくたって、いいの。私が側にいたいの。
ううん。いないと生きていけないんだよ。臨也さんがいてやっと呼吸できるの。」
泣きそうな顔してんのに、何でそんな幸せそうなんだよ・・・
「正臣くんにはそういう子、いる?」
だって言ったら、お前は哂うんだろうな。
臨也さんにそっくりな笑みを浮かべて、嘘つきだと。
俺だって沙樹だと胸を張りたい、張りたいが・・・俺はまだ大人じゃねーんだ。大人になれねーんだ。
だから、だからさ。言わせて欲しい。二度とあんな想いをしないためにも。
「ああ。っていう女だ」
(正臣君はバカだね。自分に言い聞かせたって、心は偽れないのに)