「悲しい人」君はそう言った
「悲しい人」
何度そう告げても、目の前の優男は表情一つ変えやしない。
分かっているから。何もかもを見透かしているから、こんなにも余裕なんだ。
「なら助けてよ、ちゃん」
そう言って、男―臨也は私を胸に閉じ込めた。
ああ、ああ、最低。本当にこの男は最っ低だ。
助けて欲しいのはこっちだよ。
アンタに魅せられて、魅せられて・・・最低な奴だと”悲しい人”と知って尚、抜け出せない。
「ちゃんが慰めてよ?」
そのニヤケ顔も憎めない。
全部全て皆、愛しいとさえ思ってしまう。思えてしまう。
何の戸惑いもなく顎を掬われ、気がつけば距離はゼロ。
甘く優しい口付けを何度も、何度も送られる。
ああ、ああ・・・・!愛しさが爆発しそう!
こうすれば私が大人しくなるのも知っててやってる。
「サイテー」
そんな顔して言ったって、説得力ないよ?
知ってるちゃん?君、嘘つく時絶対に目あわせようとしないし、声のトーンも下がるんだよ。
可愛い可愛いちゃん。俺の大好きな人間の一人。
でもね、もう俺は次に進みたいんだ。進みたくて仕方がない!
だからね?俺はあえてこの言葉を君に送るよ。
「そっか。じゃあ、さよならしちゃおっか」
ちゃんの俺への愛は日に日に大きく、大きく、自分でもコントロールできないようになってる。
ある日突然、風船のようなそれを割ってしまったら君はどんな表情を見せてくれるんだろうね?
ずっと我慢してきたんだ・・・もうそろそろご褒美が貰えたってバチは当たらないだろ?
さぁ見せてくれ!人間を愛する俺を骨の髄まで愛してしまった君がどんな行動に出るのか!
絶望に彩られた表情を確かめるよう、ちゃんの輪郭をスルリとなぞっていると、ふと彼女が口にする。
「臨也は、本当に・・・悲しい、人だね」
(心が、ざわめいた)