その瞬間が来るまで


本っ当、いっそ殺してやりたいくらいだよ。

平和島静雄に恋人が出来た。
その噂を確かめにその人物―と名乗る女の子に接触することに成功したのはいいが・・・

「それで静雄さんったら・・・」

微かに頬を蒸気させ、伏目がちに喋る姿は中々に可愛らしい。
それが静ちゃんとの惚気話でなければ、の話しだが。
コーヒーに口をつける時間さえ与えないよう、マシンガンのごとく喋る喋る。
もう辟易としていたが、臨也は嫌な顔一つせずににあわせ相槌をうつ。

だって、ここで遮っちゃったら面白くないじゃない?

適当な理由をつけて、去ってしまうのは簡単だ。
しかし、これほどまでに静雄を愛している彼女に、少しの不安感を与えてみるとどうなるだろう?
この様子だと静ちゃんのアンダーグランドまで知らないと見える。
だって、俺のこと知らないんだよ?あの単細胞でも、俺に近づくなとか何とか言うでしょ。
大切な存在なら尚更に。

「そうか・・・静雄くん(寒気がする!)はさんのことを本当に愛しているんだね」
「あ、ああ、あ愛してるだなんてっ!」

茹蛸よろしく、顔を真っ赤にさせ顔を覆うに臨也は今までとは異なった笑みを浮かべた。
それは、人受けの良さそうなお兄さんから、情報屋折原臨也に変化した合図。

「そうか。でも、静雄くんは話してないんだね・・・」
「え?」
「本来なら彼の口から聴くべきなんだろうけど」

幸せの絶頂にあった表情は怪訝そうなモノに変わる。

「彼は高校の時、同じ学校だけじゃなく色々な人とも喧嘩を繰り返す日々でねぇ・・・何度病院送りにしたことか」
「えっ?」
「それだけじゃないよ。今はその天才的とも言える暴力を活かした仕事についてるし」
「・・・・・。」

饒舌なはどこへやら。青い顔をして黙り込んでしまった彼女を見て、臨也はほくそ笑む。
そうだ、そうだよ!その絶望に満ちた顔が見たかったんだよ。でも、まだ足りないよ?
臨也はテーブルの上で微かに震えるの手に、自分の手を重ねる。
そのことで、我に返ったはとても驚いた表情で臨也を見上げた。

「僕はね、心配なんだよ。静雄くんは怒りをコントロールすることができない。あの怒りの矛先が、いつかちゃんに行くんじゃないかって」

心から心配したような声色で、囁くように話す臨也には困惑したように、視線を左右に泳がせている。
静ちゃんと付き合ってるっていうから、もっと警戒心ある個性的な女かと思えば・・・臨也は落胆した。
出会って間もない男に、恋人の親友(自分で言って吐き気がした)と言われてホイホイ着いて来て、その男の言葉を全て鵜呑みにするなんて。
どこにでもいるバカ女らしい。羽島幽平のファン、とかいうオチだったらベタすぎて、それはそれで哂えるけどね。

「臨也さん・・・楽しいですか?」
「はっ?」

今度は臨也が目を見開く側となった。
先ほどまで不安げだった彼女は一変、実に攻撃的な表情で警戒心露に、自分を睨みつけている。
何だコレ、予想外にも程がある!

「折原臨也。あの優しい静雄さんが殺したくて堪らないって、いう蓑虫さん」
「・・・へぇ。君最初から分かってたんだ」
「貴方も騙したので、イーブンです」

俺が静ちゃんの天敵だと知ってて、ここまで騙しとおしたって訳か・・・いい性格してるな、本当。
何で気付けなかった?観察力が訛ったのか?いや、彼女が上手すぎただけだ。

「騙す?俺はぜぇんぶ真実を言ったまでじゃないか」
「いいえ。静雄さんはとっても優しい人ですよ?そりゃあ怒りをコントロールできませんけど」

それは欠点ってことで、目瞑らなきゃですよ。
楽しそうなその表情に苛立ちを覚える。いやこれはもう、嫌悪だ。何故なら彼女が、俺に似ているから。同族嫌悪って奴だ。
苛立ちを隠さず、舌打ちをした俺を見て満足したのか、彼女は立ち上がった。

「ま、これ以上はお互いの精神衛生上よくないですね。愉しかったですよ、蓑虫さん?」
「・・・・・静ちゃんの前では猫被ってるんだ?」
「半分剥がれてますよ?けど静雄さんは、そんな私を愛してくれてるみたいです」

頬を染めながら、断言する。その顔を泣き顔に変えてみたいと、切に思う。
心で静雄を想いながら、俺にむちゃくちゃにされるんだ。ぐちゃぐちゃに、死んだほうがいいと思う程、屈辱的なことを。
嗚呼、想像するだけでゾクゾクする、堪らない。
突然、ニヤリと口元を吊り上げた臨也から何かを感じ取ったは、冷え切った視線を向けこう言い放った。

「臨也さんがこの世から肉片一つ残さず、消されることを切に願いますよ」









(この執着を憎悪と呼ぶなら、ソレは愛になるんだろ?)