悪意の罠


きっと臨也には伝わらない。
私がいかに臨也が大事で、世界の誰より愛してるなんて。
言葉で行動で。もう数えることも馬鹿らしくなるくらい、現したのに。


「どうして臨也は私を見てくれないの?」
「もちろん、も愛してるよ」
「それは人間としてじゃない。そういう意味じゃなくて」
「俺の中では、あの怪力化け物以外、人間は平等に愛するべき存在だからね」


そう甘い声で言いながら、私を包み込むように抱きしめ、髪を撫でながら耳元で喋るなんて反則よ。
普通の男なら、私の愛情表現が怖い、重いって逃げ出すのよ。
なにが怖い、重い、よ。愛に思いも軽いもないじゃない。ふざけるなっての。
だから、今までの男たちは葬り去ってやった。精神的にも、肉体的な意味でも。
そんな過去の男に、最期の愛を伝えているとき、私は臨也と出会ったの。


『何でそんなことしてるのか、教えてほしいな』


裾にファーがあしらわれた真黒なコートを纏った優男風の男が、ニッコリと笑って話しかけた。
それが私と臨也の始まり。
体中が熱くなって、一言しか喋ってないのに、すぐ分かったの。
ああ、この人が私の運命の人だって。
私の愛を理解してくれるのは、世界中でこの人しかいないって!
私の愛を重い、怖いと表現した男に、愛を刻み込む作業なんてどうでもよくなってしまって。
血まみれのシャベルを放り出し、同じく血のついた頬を綻ばせ、彼女は笑った。


『ね。私は。あなたのこと愛しちゃったみたい。だから私のモノになって?』


「ほーんと、嘘でもいいからだけを愛してるって言って欲しいわ」
だけを愛してるよ」


今何時ですか?6時ですよ。そう気軽な質問に答えるように言うから、思わず顔を顰めてふりむいた。


「・・・・そうよね、臨也はそういう男よね」


わざとらしく溜息をつくと、彼は女のように細長く綺麗な指で私の顎をすくい上げ、唇のすぐ横にキスをする。


「でも世界中で一番、愛してるだろう?」


次は唇にキス。触れるだけのキスを数回、物足りなくなったので口を開き舌をつつくと無遠慮に侵入してくる臨也の舌。
2人で何度も何度もすり合わせ、苦しくなったら息を吸う。
キスする時に目なんて閉じない。どんな些細な表情も見逃したくないから。
血のような赤黒い瞳が情欲に濡れていく、その様を脳裏に焼き付けたいから。
口内に溢れそうな液体を飲み込むと、どちらともなく唇を離す。
でも、舌は最後まで絡めたまま、ゆっくりと名残惜しげに離すと、チュプリと卑猥な水音が響いた。


「そういう憎らしいところも、全て、ゼンブ。愛してる、臨也」
「精神的にはドSなのに、肉体的にはドMって・・・って器用だよね」
「そのドMを虐めるのが癖になってるのは、どこの誰?」