ZERO









「おっはよー!」

千枝ちゃんの元気な声に、3人共顔をあげそれぞれ挨拶を返した。
登校してきたのは彼女一人、雪ちゃんはまだ体調が優れないらしく、しばらく休むとのこと。

「心配しないで、って言ってたから」
「そっか、よかった・・・・本当に」
「俺たちで天城助けられたんだ、自信持とうぜ?」

疲れたと幾度もボヤいていた陽介が、爽やかな笑顔でウィンクを一つ。
悠がなんともいえない微妙な顔をしているのを、見てしまった。
正直私も、陽介のこういうところは・・・・・・寒いと思う。
いい子だけど、ちょっとズレてるっていうか。
ああ、そっか。だから"ガッカリ"なんて言われてる、のかな?

「つーか里中元気だよな?俺たちなんかもー疲れがたまって、なあ鳴上?」

千枝ちゃんを恨めしげに見やり、同意を得ようと悠にふっても、全然と涼しい顔で否定され陽介は机に突っ伏した。

「バイトもしてるからでしょ?偉いよね、家の手伝い」

食品売り場から、フードコートとあらゆる売り場に借り出されているのを、よく見かける。
店長の息子というだけで、いいように使われている風にも見えなくはないし、本人も分かって気にしてるようだけど。
その理不尽さを受け止め、決して投げ出すことをしない。
口では面倒くさいと言いながらも、任されたことは最後までやり通している。

「その辺は、まあ・・・仕方ないっつーか、バイトだしな?薄給だけど、貰ってるもん貰ってるんだし、な」
「陽介のそういう真面目なとこ、好きだな」
「す、好き?!」

素っ頓狂な声を出して、立ち上がった時思い切り脛を机の角にぶつけたらしい。
何を慌てることがあるのかと思いつつ、痛いと悶える陽介に大丈夫?と声をかけていると。

「好きって、何が?」

私と陽介が会話をしていたように、悠と千枝ちゃんも会話をしていたらしい。
話の流れを説明しようと口を開いたのに、あーやわーなど奇声を発した陽介が遮ってしまった。

「べべべべ、別に大したことじゃねーよ?!な、サン!」
「露骨に慌てるのが怪しいよね、鳴上くん」
「なんで顔が赤くなってるのかも、気になるな」

悠に指摘され始めて気づいた。微かに赤かった顔が、更に赤くなった?

「もしかして・・・・・そんなに痛い?」

脛を指差すと、彼は一瞬ポカンとしてあはははっと乾いた笑みと共に、脛がどれほど痛むかを説明しだした。

「そうだ、鳴上くん。まだ部活決めてないなら、ちょっと頼まれてくれない?」

陽介を見事なまでにスルーして、会話を続ける2人は強いと思う。
気づいてなくて喋ってる彼も中々に強い、とは思うけど。

「バスケ部なんだけど、人数足りてないらしくて。どう?」
「やったことないよ、俺」
「未経験でも歓迎って言ってたし、その辺は大丈夫!」
「鳴上がバスケ部か・・・・そりゃモテそうだな」

いつの間にか復活した陽介が、悠の肩を叩いて笑い、千枝ちゃんはあんたはまたそういう方向へと呆れを滲ませている。
そんな2人を横目に、悩み決めかねている悠に声をひそめて告げる。

「運動はいいことじゃない。ストレス発散にもなるし、体力つくし・・・・何より楽しそう」

運動部に所属したことは、私も悠もない。
文化系の部活動、というよりもっと自由な同好会には所属していた、人数あわせにも近かったけど。
理由は考えるまでもなく、各地を転々としなければならないことだ。
深く関わることが、怖いから。身近にある別れが嫌だから。
離れなければならないことが分かっているのに、わざわざ傷を作りにいく趣味はない。
多分、悠もそういうことだったんだと思う。

けど稲羽に来て、他人と絆を深めるのも悪くないと思えたからこそ、部活もやってほしい。
私と過ごす時間も大事にして欲しいけど、それ以上に特捜隊メンバー始め、それ以外の人たちとも、過ごす時間を大事にして欲しいから。
意味はほぼ伝わったらしく、目を軽く見開いてはいたものの頷いて、千枝ちゃんに振り返った。

「バスケ部、見学からでもできる?」
「うん!一条君に伝えておくから。放課後、一緒に体育館行こ。何ならちゃんも一緒に、どう?」

特にやることもないし、行くと告げ陽介にも話を振るが、彼は大きなため息をついて、バイトだと笑った。
よく働くねと苦笑いを見せた私に、バイクが欲しいから貯金のために仕方ないとかぶりを振る。

「何でバイクなの?」
「前から欲しいとは思ってたんだけど、まあチャリも壊れたし?」

電信柱やゴミ箱に突っ込むような無茶な運転をしていたら、そうなるのは必然だろう。

「原付じゃないよね?16歳なら、400ccまで取れるんでしょ?」
「お。よく知ってんじゃん。もしかしてバイクとか興味ある?」
「ううん、そうじゃなくて。大変だなって思って」
「大変?何で」
「免許取るのに教習所通うでしょ。それからバイク買って、保険代やら後の維持費諸々、って考えると」
「げ、現実的ですねさん?」

顔を引き攣らせる陽介に、反射的にため息がでた。
よく考えないで取ろうとしてたな。
夢だけ追っかけてるっていうか。こういうのって男子特有なんだろうか、悠や父さんにそっくり。

「高校卒業までに、取れれば良いね」

励ましたつもりだったんだけど、陽介は肩を落として項垂れた。







「人数少ないし、和気藹々・・・・って感じじゃなかったか」

部員、マネージャー共にやる気はなし。部長の一条くんはやる気満々なんだけど。
試合もしたいけど、部員全員じゃ試合すらできないから、誰でも歓迎!と押しに押されて入部。
お人よしの悠らしいちゃらしいけど。

「期間限定でもいいって言ってたし、あわないと思ったらやめたら?」
「中途半端は嫌だ」
「言うと思ったよ」

融通がきかないんじゃないけど、頑固なのは間違いない。
決めたことはやり通す、失敗しても何度も練習してできるまで、やる。
しんどいけど、できたときの達成感は心地いいものだ。

、マネージャーで入部しないか?」
「エビハラさんがいるでしょ、無理」

だよなと項垂れる悠に、頑張れと励ましの意味を込めて肩を叩く。

「試合とかあれば、応援行くから」
「できるかどうか、分からないけどな。で、は部活どうするんだ?」
「部活より、バイトしようかなって」

運動部はバレーかテニスしか入れないし、文化部は吹奏楽か演劇のどちらも2択。
球技はあまり得意ではないし、音楽なんて破滅的だし、自分に演技ができるとも思えず、やる気力すら沸いてこない。

「消去法でバイト、か」
「うん。あとは料理、始めてみようかと思って」
「・・・・・なんで、また」
「菜々子ちゃん、成長期なのに惣菜ばかりじゃよくないでしょ?」

仕方ないこと、と見過ごせなくなってしまった。
彼女の幼少期は、私たちの幼少期を見ているようで、落ち着かない。
エゴだ。彼女にそうすることで、自分達が救われるとまではいかないけど。

ただ菜々子ちゃんには、寂しい思いをしてほしくない。
私たちのように、親に期待することを諦めて欲しくないから。
何が正しい家族なのか分からない。
だけど家に帰って皆でご飯を、家族が作ったご飯を食べるっていうのは、すごく大事なことだと思う。

「とりあえず、ご飯炊くのから始めたいから・・・・見ててくれる?」
「包丁握るのは、俺がいるときにしろよ?」

頭を撫でる手は少し乱暴だったけど、そう言われた声が酷く優しくて、思わず笑みを零した。

「そうだ!練習用に毎日お弁当作るの、どうかな」

朝は多分無理、悠がとっても朝に弱いから。
晩御飯が終わったあとなら、たっぷり時間もある。

「弁当に向いてるおかずか・・・・まず炒め物から始めるか?」
「うん、ジュネスで買出ししてこ」

膳は急げとジュネスに向かうと、バイトに励む陽介の姿が。
料理の練習のため、弁当を作ることを告げると、絶対しょうが焼き!と大プッシュされ、勢いに流されて材料を購入。

「明日楽しみにしてっからな!」

微妙なプレッシャーを感じつつ、夕食後レシピを見ながら作り始めたものの。

「そんな握り方ないだろ!?手切るぞ!」
「え?じゃあ、こう?」
「俺を殺す気か!」

包丁の持ち方を丁寧に説明された後、いざ豚肉に切れ目を入れたものの。

「・・・・・・細切れだろ、これじゃ」
「食べられるよ!・・・・多分」

しょうが焼き用の一枚肉は、何故か細切れのようになり。

「しょうがは摩り下ろって、皮をむけ!」
「へ?この茶色いの皮?」
「チューブの摩り下ろししょうがは、茶色くないだろ?ちょっと待て、何で包丁でやろうとするんだ!ピーラーを使え!」
「ピーラーって、手まで剥いちゃいそうじゃない?」
「ピーラーは剥くだけで済むだろ、包丁は削ぎ落とすぞ」
「それは嫌だ」

しょうが汁に肉を漬け込み、その間にフライパンと調味料、小麦粉、一緒に炒めるたまねぎの準備。

「白いところが見えたら、それ以上剥くなよ?」
「それくらい分かるよ!えっと、上下落として、くし切り?だっけ」
「ゆっくり。ゆっくりな、慎重に!」

小麦粉をまぶして、いよいよフライパンへ。

「つけすぎだ!それじゃ小麦粉団子だろ」
「確かに」
「火加減は中火で、焦がさないように。中まで火通さないとダメだからな」
「悠、本当詳しいね」
「命は惜しいからな、必死で調べた!」
「胸はるとこじゃないよね」

たまねぎはプライパンの空いたスペースで炒め、最後に調味料を加え、焦がさないように煮詰めたら出来上がり。
お肉は小さくなっているものの、お皿に乗ったそれは十分にしょうが焼きに見える。

「いい匂いがする」

匂いにつられて菜々子ちゃんが台所までやって来て、お皿を覗き込みおいしそう!と歓声を上げた。

「料理の練習中なんだ。菜々子ちゃん、味見してくれる?」

ちょっとお行儀悪いけど、手でそのまま掴んでいいよと告げると、菜々子が嬉しそうに手を伸ばしたときだった。

「菜々子、ちょっと待って。俺が毒見を」
「毒見って、傍で見てたから大丈夫でしょ」

でも万が一ということはあるし、残念そうな顔をする菜々子ちゃんにごめんね、と謝り悠にお皿を差し出す。
一切れ掴み、口に放り込んで2、3度咀嚼したと思ったらビクリと肩を震わせた後、顔を顰めた。

「え、何?うそ、そんなマズいの?」

分量どおり作ったはずだから、そんな訳あるはずが。
見た目も、香りもしょうが焼きそのもので、おいしそうの部類に入るはずなのに。
きっと悠が大げさに言ってるだけだろう。そう高を括ってしょうが焼きを口に放り込み、2、3度咀嚼した後。

「ん゛?!」

辛い、無性に辛い。ピリピリとした刺激が舌から、口内全体に広がっていく。
目を微かに赤らめた悠は、いつの間にか水の入ったコップを手にし、それを一気に煽っている。
身悶える私に気づいたのか、悠は手にあるコップに再び水を注ぎ、私に差し出した。

「なんでこんな、しょうががきいてるんだ」
「レシピ通りのはず?うう゛・・・舌が痛い」

舌を出して辛味は収まるはずがないんだけど、でもやってないよりはマシ・・・・な気がする。

「・・・・・・、しょうが一袋全部使ったのか?」
「だって一欠片ってあったよ?」
「・・・・・・・・」

絶句する悠に首を傾げていると、傍にいた菜々子ちゃんが食べちゃダメなの?と悲しげな顔で尋ねた。

「んとね?マズいから、美味しくできたら食べてくれる?」
「うん、約束ね?」

小さないとこと笑いあったあと、しょうがの一欠片を教え込まれ、初のお料理練習は終わりを告げた。
辛いけど、捨てるには勿体無いから予定通りお弁当のおかずに。
陽介には失敗したと連絡したものの、フリだろ?楽しみにしてるぜ☆と期待たっぷりの返事に、項垂れた。





翌朝、陽介の煽りにハードル上げないで!とやりとりしつつ、2時間目の授業開始のチャイムが鳴ると同時に、携帯が鳴った。
メール・・・・って、悠?

「買出し行ってくるって・・・・何?」

あまりにもシンプルすぎて、理解できない。陽介の背中を叩くと、何だよ?と振り返る彼に携帯の画面をつきつけた。
携帯がどうかしたのか?と言いながら、メールに目を通し一言。

「買出しっつーか・・・・普通にサボりじゃね?」
「ですよね」

中々やるな、あいつ。と感心している陽介に、千枝ちゃんが鳴上くんは?と尋ねている。
真横の席が空になっているのに、気づかないわけが無い。遠まわしにサボりだと説明する陽介をよそに、メールを見返す。

悠は自発的にサボったりしない。
面倒くさいという言葉が好きじゃないから、そういうことも言わない。
何を考えているか分からない、ってよく言われるけど真面目なタイプ。
多分、第三者に誘われてついていった、そんなところだろう。
嫌な時ははっきり嫌だと言うくせに、どちらでもいい時は他人の判断に任せる。
自分の片割れながら、ほんっとややこしい性格してる。
小さくため息をついて、視線を向けた先には、鞄その他諸々がそのままの置いてある2つ前の空席。
授業をサボって直帰、ということはしないらしい。
それとも、本当に買出しと信じて着いて行ったのなら・・・・バカなのか人が良すぎるのか。

「そんな訳ないか」

真っ直ぐなとこもあるけど、ところどころ屈折してる天邪鬼が気づかない、なんて有り得ない。
ま、放っておこう。怒られたって悠だし、私は関係ない。
双子といえど同じ人間じゃない、私たちは性も違っててどちらかといえば兄妹なんだけど。

「要するに・・・鳴上くん、サボり?」
「要すると・・・そうなるな」

千枝ちゃんと陽介が納得したところで、私も携帯を閉じた。
荷物を取りに帰ってきたら、理由を聞いて納得できなかったら・・・怒ってやろう。
そう決心し、黒板に書き連ねられる白い文字を追うことにした。




全ての授業が終わり、SHR前に何食わぬ顔で姿を現した悠に、陽介が開口一番。

「どこ行ってたんだよ、お前!」
「買出し手伝ってた」
「何のだよ?っつーか、転校してきて1週間ぐらいで・・・やるな、相棒」
「花村はちょっと黙ってなさい!本当の話、何してたの?ちゃんも心配してたよ?」

陽介と千枝ちゃんに挟まれ、黙って二人の話を聞いていた悠が振り返った。

「心配は・・・まぁ、メールくれたから。そうじゃなくて、どうしてサボったか聞きたいだけ」

うわっ、直球と驚いている千枝ちゃんをよそに、直球を投げかけると、片割れの答えも直球で返ってきた。

「バスケ部のマネージャーに買出しって言われたから、なんとなくついていった」

この答えに陽介、千枝ちゃん双方が驚いて目を見開いた。私はやっぱり、とため息をつく。
今時幼稚園児でも着いていかねぇよ?と呆れている陽介と、バスケ部のマネージャーって、と思い出そうとブツブツ呟いている千枝ちゃん。
問題を起こした本人は、これっぽっちも罪悪感なくいつもの様子でそこに座っていて。

「サボるの、たまにだったらいいけど。続いたら、菜々子ちゃんに言うからね」

両親でもなく、叔父さんでもなく"いとこ"だけど、私達の認識はもはや妹。
それくらい可愛くて大切な、菜々子ちゃん。彼女を引き合いに出す方が、ただ注意するより効果的だ。
"菜々子ちゃん"の名前を聞くや否や、分かったと素直に受け入れる悠に、彼を挟んでいた友人2人が顔を見合わせ、私をみた。
彼らの心の声が嫌でも聞こえてきそう、きっと"すごい"だ。全然嬉しくないのは何故。






翌々日の金曜日、いつもと同じ朝だった。
朝食の準備をしていると、菜々子ちゃんが起きてきて準備を手伝ってくれ、できた頃に寝ぼけ眼の悠が姿を現す。
トーストもいいけど、たまにはご飯かなとボンヤリ考えていると、菜々子ちゃんがテーブルを離れた。
そのタイミングを見計らって、悠が一言。

「俺、彼女できたらしい」

イチゴジャムとトーストが口から飛び出・・・はしなかった。なんとか押しとどめた。
押しとどめたことが原因で、口の中のモノが気官に入ろうとしたらしく反射で咳がでそうになる。
咳が出ると口の中のものが、でてしまう!半ば気合で飲み込み、咳き込み始めると悠が背中をさすってくれた。
ありがとう、と涙目になりながら言うと、慌てるからとため息をつかれて・・・・じゃなくて、彼女が?らしいって何!

「彼氏できるまでフリをしないと、死んでやるって言われた」
「だ、誰に?どういう経緯でそうなったの?説明、してくれるよね?」
「・・・・・・けんか?」
「「超仲良しです」」

不安気な菜々子ちゃんに、仲の良さを強調するようにハモったところで、とりあえず学校へ向かう。
途中の分かれ道で彼女を見送った後、悠に振り返った。

「で?どういうことか説明してくれるよね?」

顔を引き攣らせた悠によれば、付き合う?ことになったのは、バスケ部のマネージャーのエビハラさん。
彼女には好きな人がいるんだけど、その人の好きな子は別にいて。
その事実が判明した時点で、死ぬと暴れまわったのを止めたのがきっかけで、彼氏代わりをすることになった、と。

「お人よし?」
「仕方ないだろ、死なれても後味悪い」

呆れかえる私に、居心地悪そうにため息をつく悠。
多分、失恋の痛手?から抜け出したくてそういうことを言ったのかもしれないけど、悠の気持ちはどうなるんだろう?
でもまあ・・・・本人が納得してることだし、よしとしておく。
こういう優しいとこも、悠のいいとこだし?悪いとこでもあるけど、ね。

「悠が納得してるなら、いいや。頑張れ」
「うん。まぁ・・・」

はぁとため息をついた兄に、励ますよう背中をポンポンと叩いていると、後ろからおはよう、と聞こえ振り返る。
少し離れたところに、陽介と千枝ちゃんが2人で手を振っている。おはようと返して、2人が来るのを待っていると

「悠〜!」

とっても甘い声と共に、走ってくる一人の女子生徒。
明るく染めて、ふわふわとしたカールの髪を揺らしこちらへ駆けてくる。
細身の体躯、ハデめな化粧をしているせいか同年代には見えない大人っぽさがある。
間違いない。見学のときに見かけたマネージャー、悠の仮彼女のエビハラさんだ。
あっという間に私たちに追いつくと、悠との間を切り裂くように割り込み、スルリと片割れの腕に自分の腕を巻きつけた。

「ねぇ悠、今日授業抜けてどっか遊び行こうよ?」
「は、え?ちょ・・・」

ぐいぐいと強引に引っ張られ、否定しながらもはっきりと拒絶しないためズルズルと連れて行かれた。
目が助けてと訴えていたって、私の知ったことじゃない。自分で蒔いた種でしょ。
いってらっしゃいという意味を込めて、手をヒラヒラさせると片割れの顔色は真っ青に変わる。

「いつの間に・・・」

陽介が信じられない、という風に言い、千枝ちゃんは唖然と2人を見送っている。
転校生、海老原と付き合ってんの?など周りが騒ぎ始め、標的は私にまで及び・・・正直居心地が悪い。
まだ2人を見送っている千枝ちゃんと陽介に、遅れるから早く行こう?と声をかけると、彼らはようやく正気に戻った。

、いいのかよ?」
「何が?」
「鳴上くん、授業サボっちゃうよ?」
「自分で蒔いた種だから、いんでしょ?なんとでもするよ」

すると2人が私の隣に駆け寄り、千枝ちゃんに至っては腕をガッチリホールドされる。

「分かる、分かるよその気持ち」
「兄弟に恋人できたら、寂しくなるっていうけど・・・大丈夫!ちゃんには私達いるから!」
「え?私寂しいとか思ってないよ?」

何言ってるの?と首を傾げても、2人は無理するな!分かってる。と何度も頷いて聞く耳持たない。
あ、そっか。2人は知らないから必死になってるのか。
実際、どっちかに恋人ができたらどうする、かな・・・・2人でいられる時間が減るのは、やっぱり寂しいかな。

よく、わかんないや。