皆がテレビから帰ってきた後、能力が上がっていることを伝えた。
「それでも相変わらず視界は悪いし、シャドウが暴走した後は見えなくなっちゃうんだけど」
「視界が・・・・ってことは、もメガネ必要なんじゃねえの?」
「クマに頼んで、専用のメガネを」
「私鼻眼鏡、嫌だからね」
ちっと舌打ちをした悠を睨んでいると、陽介がすげえな、と感嘆を漏らした。
「伊達に双子やってないんで」
「そりゃそうだ!」
おかしそうに笑う陽介に、今度は雪ちゃんがどうして!と悲しそうな声をあげる。
顔を引き攣らせながら、陽介が言った。
「天城サンはあのメガネ、相当お気に入りですね」
「鼻ガードあるし、かっこいいじゃない!」
「おやめなさい!」
千枝ちゃんに窘められたと思ったら、何故かお腹を抱えて笑い出す雪ちゃん。
どうやら千枝ちゃんが鼻眼鏡をかけていた顔を、思い出してツボに入ったらしい。
「・・・・・ギャップ萌えって、程度があるな」
「激しく同意する」
深く頷きあう男子2人に、何の話か尋ねてもボーイズトークと悠が一言で終わらせてしまう。
納得いかないけど、どうでもいい話だからいいやと、知ることを諦めるとポケットにある携帯が震え始めた。
着信かと思い、携帯を取り出すと"新着メールアリ"の文字が、小さなディスプレイで光っている。
同時に発送者である"足立透"の文字も続けざまに、流れていった。
メルアドを交換したものの、特に用事もなくやりとりをしていなかったのだけれど・・・・不思議に思いながら開封すると。
【友だちできて、よかったね(^v^)!!僕の役目は終わりかな(笑)】
と55bitの簡素な文章が。やっぱりあの意味ありげなウィンクは、そういう意味だったんだ・・・・というか、僕の役目って。
足立さんは予想以上に、愉快な大人らしい。義務感ではなく、楽しい気分でも簡素なメールを書き上げた。
【一番は永久欠番で定説ですよ】
足立さんに貰った文章の半分のbit数で送信。ちょっとした言葉遊びなら付き合ってくれるだろう。
どういう返事が来るか、楽しみだ。
はもう一度笑みを零して、携帯を閉じると同時に、ちゃんと呼びかけられ、ポケットに携帯を押し込みつつ、顔を上げた。
雪ちゃんは無事、笑いのツボから脱したらしい。後ろで千枝ちゃんが疲れた顔してるのが、気になるけど。
「千枝から聞いたんだけどね、3人でお泊り会しようって話」
千枝ちゃんに視線を投げる彼女に倣うと、疲れた顔をしつつも表情は笑顔で私たち2人に、ピースをしてみせた。
雪ちゃんがテレビに入った後、千枝ちゃんがパニックを起こしかねないと連絡をした時、交わした約束だ。
千枝ちゃんは、ちゃんとそれをちゃんと覚えててくれたらしい。
嬉しくて心が温かくなるのを感じながら頷くと、じゃあ早速日にちだけど、と雪ちゃんが提案し始めると。
「俺ら、先帰ってるわ」
女の子の話が立て込むのを、よく知っているらしい。陽介が苦笑いを浮かべながら言い、悠も頷いた。
あいの一件で、女の子の生態を少しは理解してくれたらしい。
そそくさと去っていた2人を見ながら、3人で顔を見合わせて笑った後"女子会"の相談を切り出した。
3日から4日にかけて、里中宅でと話が纏まり、暗くなる前に帰ろうとそそくさと2人と別れた後、またも携帯が震えだした。
普段からメールに対してものぐさなため、登録されているアドレスから、何気ないメールが来ない。
来たとしても、急ぎの用件でないと分かると、2、3日放置してしまう。電話も滅多なことでもない限り、ほぼ皆無。
携帯が短時間に鳴る、という非日常を体験しているからか、とても楽しくてワクワクしている。
もしかしてと期待を込めて、点灯しているディスプレイに目を通すと、新着メール足立透の文字が。
ただ一つ気になることが・・・・・彼はまだ、勤務の真っ最中じゃなかろうか?
休憩の合間だったらいいんだけど。サボり癖があるのを見てしまった手前、口実にしているんじゃないかと不安が過ぎる。
あまり立て続けにメールするのは、やめておこうと決めて、新着メールを開くと。
【稲羽署一の頭脳派でも、定説は破っちゃいけないよね】
やっぱり、この人頭の回転が早い。
拙いレベルに合わせてくれてるところが、大人の余裕を感じさせる。
歩く情報漏洩と揶揄されても、仕方ない部分もあるけど・・・・爪を隠しているのか、出すつもりがないのか、ないことを装っているのか。
一度、本音で話してみたいな・・・・・そう思いながら、は携帯を閉じた。
同日夜、夕食を終えいつものように食後、居間でテレビを見て過ごしていると、新聞を広げいてた叔父さんが4日と、5日だなと呟いた。
唐突な発言に3人の視線が彼に集中した。叔父さんは広げていた新聞を畳み、言った。
「4日と5日なら・・・まあ、休み取れそうだ」
以前叔父さんがポツリと漏らした、大型連休に休みがとれるかも、と言った言葉が現実味を帯びてきた。
カレンダー通りの休日なんて、私たちが来てから始めてなんじゃないだろうか。
その言葉がよっぽど嬉しかったのか、菜々子ちゃんは立ち上がってほんとう?と叫ぶが、その顔はすぐに暗くなり、ほんとう?と同じ言葉を返した。
でもその"ほんとう?"は喜びで思わず叫んでしまったものではなく、ほんとうに休みが取れるのか、との疑いのイントネーションで。
叔父さんも菜々子ちゃんの発言には、意外そうな顔をして疑ってるのか?と訊くと、彼女も俯いたまま悲しげに返した。
「いつも、ダメだから・・・」
「ま、毎年じゃないだろ?ジュネスに行きたいんだったか?近所じゃなくても、少しくらい遠くたっていいぞ」
憂鬱な気分はどこへやら、再び立ち上がって驚きを隠せずほんとう?りょこう?と尋ねる菜々子ちゃんに、叔父さんも頷いた。
「ま、どこもメチャクチャ混むだろうが・・・たまにはいいかもな、旅行も」
娘にしか見せない、頬の緩みきった顔でそう言い今度は私達を見た。
「どうだ、予定ないなら一緒に行くか?」
私は予定はないけど、悠はどうなんだろう・・・それより、家族水入らずで行って貰ったほうがいいんじゃないだろうか。
それは悠も同じような考えらしく、思案顔で私をみた。
すると菜々子ちゃんが、いこうよー!と不満げな顔でい言い、叔父さんも菜々子のためにとと遠まわしに言われれば、断れない流れで。
私達が頷いた途端、満面の笑みを浮かべお弁当を持って行きたいと付け加えた。
「ん?ああ、そうだな・・・・でも今年は、お前達がいるんだったな」
ソファーに腰を下ろしていた叔父さんが立ち上がり、私達の肩に手をおいた。それも素敵な笑顔で。
確かに、作れるものの幅は広がってきているけど、豪華なものじゃないし、基本中の基本のものばっかだし。
おかずにむいてるものは作れるけど、お弁当のおかずは・・・・しょうが焼きはまともだけど。
苦い経験と共に思い返していると、隣にいた悠が私の肩に手を置いて、深く頷く。
「俺も、ちゃんと手伝うから」
「うん。私もお腹壊したくないし」
私たちのやりとりを見た叔父さんが、不安そうに顔を引き攣らせた。
4日まで日数はあまりない。その翌日から、お弁当に入れられるおかずの特訓が始まった。
実験台は言わずもがな、自分達と特捜隊のメンバー。
事情を話すと、菜々子ちゃんのために!と皆決死の思いで・・・・・って失礼極まりないんだけど。
すでに肉じゃがまでマスターしているのに、炒め物で失敗するはずがない!
そう意気込んだからか、タコさんウィンナーも玉子焼きも少し焦がしてしまった。
香ばしさが2割増しにはなったものの、味に変わりはない。
「しょうが焼きん時から比べたら、偉い進歩だな!」
陽介に他意はないと分かっていても、どうやったって皮肉にしか聞こえないんだけど。
苛つきつつも、その次の日はから揚げ、野菜の豚肉巻き、と肉を中心にしたおかずを片っ端から試し、普通に食べられることが判明。
これなら菜々子ちゃんも食べられると、特捜隊から不本意ながらお墨付きを頂いて、とうとう大型連休初日。
叔父さん不在のまま3人で晩御飯を済ませ、ニュースを見ていると電話のコール音が鳴り響く。
お父さんかも!そう言いながら真っ先に電話を取る菜々子ちゃん。
相手は予想通り叔父さんで、会話している内に小さないとこの表情はどんどん曇ってゆき、最終的に悲しげに眉を下げた。
子機を悠に差し出すと、俯いてポツリとつぶやいた。
「お休み取れなくなったって」
踵を返し自室へかけてゆく彼女を呼び止めるが、振り返らず部屋に入っていった。
それを見送って、戸惑いながらも子機に耳をつける悠の反対側に耳を近づけた。少しでも叔父さんの声が聞こえるように。
一つ目は、今日は遅くなるから、戸締りをして先に寝るように。
もう一つは、休みの件について。菜々子ちゃんが言ったとおり、休みはとれなくなったと。
何でも部下の一人が体を壊して、叔父さんが代わりに出ないといけなくなったそうで。
仕方ない。悠がそう言うものの、大人の事情は菜々子ちゃんには関係ない。ほんとう?と疑っていた彼女の意味がようやく分かった。
自分が傷つかないように予防線を張ってたんだ。
期待するより、求めることより、諦め、求めないことを優先している。
それじゃ、ダメだ。そんなことを続けたら、私たちのように自分を騙して、いい子を演じるしかなくなってしまう。
溜め込んだ気持ちは、いつの日か大爆発を起こす。大嫌い!と親を傷つけた、私達のような二の舞を踏んで欲しくないから。
「悠、電話かわってくれる?」
突然の申し出に戸惑いながらも、叔父さんに伝え子機を回す悠。
私が言わなければ、きっと片割れが伝えていただろう。そんなことを考えつつ、子機を耳に当てた。
「お疲れ様です、です。3日の夜から友人の家に泊まりに行くんですが・・・差し支えなければ菜々子ちゃんを連れて行ってもいいですか?」
例の女子お泊り会はGW中に、千枝ちゃんのお家で開催されることが決まってる。
そこに菜々子ちゃんを連れて行こうと、たった今閃いた。彼女達の許可は後でとれば良い、きっといいと喜んでくれる。
菜々子ちゃんに会いたいと、言っていたから。
叔父さんは驚いたように、いいのか?と言った。もちろん、と答えると申し訳なさそうに、すまん助かると口にした。
「私でなくて、菜々子ちゃんに言ってあげてくださいね」
少し意地悪な言い方をしたけど、叔父さんは何も言わず、ああ。と自嘲染みた相槌を一つし、電話を切った。
さっそく雪ちゃん、千枝ちゃんに事情を話すと二つ返事をもらえて、ついでに明日皆でジュネスに行くことで話は纏まった。
後は当人の返事だけ。今話すべきかと悩んでいると、悠が私を止めた。
「感情のままに、嫌だって言うかもしれないだろう?明日行きたくなっても、言い出せないかもしれない」
もっともな言葉だった。私たちの間にはそこまでの信頼関係は作れてない、悔しいことだけど事実でもある。
頷くと、悠の手が頭に乗った。チラリと彼に視線をやると、微かに笑みを浮かべて言った。
「まだ時間はある。いつか4人で出かけよう?」
「うん・・・・・家族でね」
翌朝、約束の時間通りにチャイムが鳴り玄関に向かうと、引き戸から現れたのは元気一杯の、彼女。
人差し指と中指をあわせ、額から宙へ敬礼の反対のような動作と共にちーっす!と体育会系の挨拶をした。
私達は彼女が来るのを知っていたけど、菜々子ちゃんは知らない。
突然の来客に少し戸惑っているようで、私達の背からそっと千枝ちゃんを伺っている。
そんな菜々子ちゃんに、千枝ちゃんは膝を追って視線を合わせた。
「あなたが菜々子ちゃん?」
コクリと頷くいとこに、千枝ちゃんが一緒に遊びにいこうよ、と告げると今度は私達を戸惑いがちに見た。
一緒に行ってもいいの?と言いたいらしい。頷くと、菜々子ちゃんはようやく笑顔を見せてくれた。
その後雪ちゃんと合流し、ジュネスのフードコートへ。
相変わらずせかせかと動き回る陽介を見つけ、菜々子ちゃんが食べたがっていたビフテキを注文。
「へい、ビフテキ一丁お待ち!」
目を輝かせる菜々子ちゃんに、特捜隊メンバーの目尻は下がりっぱなし。
皆一人っ子だから、兄弟に憧れが強いらしく彼女のことを妹と認識してくれてるらしい。
バイト上がりらしい陽介はエプロンを外して、空いた席に乱暴に腰を下ろした。
「あー・・・・半端なく、疲れた」
「お疲れ。もう上がり?」
「まあな。しっかし・・・・休みだっつーのに、何でここ?」
親子連れで賑わっているフードコートを見やっては肩を竦め、ナイフとフォークでビフテキと格闘する菜々子ちゃんを見やる。
同じくビフテキと格闘しつつ、それを口に放り込みながら器用に答えた。
「だって、他に行くとこないじゃん」
「だからって、こんな店じゃ菜々子ちゃん可愛そうだろ」
「うん。こんなお店じゃ可愛そう」
神妙な顔で頷く雪ちゃんに、陽介が顔を引き攣らせていると耳馴染みのCMソングに、菜々子ちゃんが顔を輝かせた。
音楽に乗せて、例のカタカナ発音で歌い上げると、満面の笑みを浮かべる。
「ジュネス大好き!」
それに陽介が目を輝かせたのは、言うまでもない。
「でもね、本当はお弁当持ってみんなで来るはずだったんだ」
もちろん特捜隊メンバーが知らないはずもなく、千枝ちゃんがニヤリと笑う。
「家族のお弁当係なんて・・・・すっかりお兄ちゃんとお姉ちゃんしてるじゃん」
でも悲しいことに、まだそう呼んでは貰ってないんだよね。
苦笑いを浮かべて、そんなことを考えていたからか、私たちを見上げる小さないとこが、小さくお兄ちゃん、お姉ちゃんと呟いたことに気づかなかった。
「しっかしもだけど、悠もすげぇよな。弁当作れるって!里中より器用なんじゃね?」
「待てこら!いつ私が作れないっつた!」
今にも噛み付かんばかりに、陽介を見上げる千枝ちゃんに、雪ちゃん、私、悠の視線が集まる。
「え?できるの・・・?」
「できるのか?」
「え。凄い」
ピシと固まった千枝ちゃんは瞬く間に復活し、だったらさ!と立ち上がって陽介を指指した。
「勝負しようじゃん!」
「いいねえ、勝負!」
言いだしっぺより、陽介の方がノリノリで菜々子ちゃんに振り返る。
「審査員は菜々子ちゃんかな!」
私も参加するの?と雪ちゃんの言葉に、もしかしなくとも私と悠も参加するんだろうか、とボンヤり考える。
小さな審査員候補は、テイクアウト用の紙コップを両手に、ストローに口をつけていて、名前を呼ばれたことで顔を上げた。
「この人ら菜々子ちゃんのママより、おいしいの作れっかな」
決して悪気はないことは分かっていても、地雷屋と心中で揶揄せざる終えない。
いや、私たちが一言言っておけば。
「お母さんいないんだ。事故で死んだって」
「そ、そっか・・・・・・・・・ごめん」
子どもは子ども、と思われる以上に大人らしい。菜々子ちゃんは努めて、という風でなく、気にしてないと言わんばかりに、かぶりを振った。
「菜々子寂しくなんかないよ?お母さんいなくて菜々子にはお父さんいるし、それに・・・・・・・」
言葉に詰まった彼女を覗き込もうとすると、菜々子ちゃんが顔を上げた。
微かに顔を赤らめて、何かを決意したような面持ちで。
「お、お兄ちゃんと・・・お、お姉ちゃん、いるし」
満面の笑みを向けられ、調子に乗らない人がいないなら、是非ともお目にかかりたい。
親バカという単語があるのも、頷ける気がする。
「今日はジュネスに来れたし、凄い楽しいよ!」
菜々子ちゃんの笑顔には、きっと絶大な癒しの効果があるらしい。
それに打たれた3人がこぞって遊ぼう?と口にし、熱烈なお誘いに嬉しそうに菜々子も、満更ではなさそうだ。
ビフテキも食べ終わり、今度はデザートと3人に連れられる菜々子ちゃん。
寂しくないのが本音かどうかは置いといて、楽しそうにしてくれてるのなら、今はそれで十分だ。
これならお泊り会に誘っても、二つ返事で参加してくれそうだ。
でもしかし、何というか、やはり・・・・・・・・
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、だって」
1ヶ月程待っていた呼び名が、これほどまでに嬉しいものだとは。
ニヤつきを抑えられないのは、私だけでなく、隣で顔を背けて肩を震わせている片割れも、らしい。
おもむろに顔をつき合わすと、2人で固い握手を交わし、その上に手を重ね合い、深く頷いた。
フードコートでの楽しい時間もあっという間、そろそろ解散しようという頃合を見計らい、菜々子ちゃんに提案する。
「ね、菜々子ちゃん、お泊り会一緒にしない?」
戸惑っていたものの、すっかり打ち解けた雪ちゃんや千枝ちゃんの誘いもあって、すぐさま頷いた。
そんな私達を尻目に、陽介が俺らもお泊り会やる?とウィンクつきで悠を誘うと、いつもの調子で反らした手を口元にやって一言。
「花村・・・コレなのか?」
「ちっげーよ!」
漫才している二人を放置して、私たちは2階の衣料品売り場へ。
目的はおそろいのパジャマを買うこと。下見してはいたけど、さすがジュネスというか種類は中々に多い。
柄一つとっても、様々。きぐるみタイプのものもある。
「あ。この緑のってガ○ャピ○じゃない?」
緑色が好みらしい千枝ちゃんが取り出したのは、朝の番組の有名な怪獣。ということは、その相棒の姿もきっとどこかに?
「これ・・・・ム○クだよね」
ナイスタイミングというか、これまた赤が好きな雪ちゃんがリネンのような柔らかい生地のそれを持ち上げる。
緑が好きな千枝ちゃんと、赤が好きな雪ちゃん。まさに2人のためのキャラクターというか。
「2人はそれでいいんじゃない?」
「それじゃおそろの意味ないじゃーん・・・・って、雪子」
どこで笑いのツボが刺激されたのか、お腹を抱えて酸素不足に陥る彼女に、どこが面白いの?と呆れかえる千枝ちゃん。
常に一緒にいるとボケとツッコミがおのずと、固定されていくものらしい。
陽介と悠もすでに役割が決まってるし、というか陽介は全体のツッコミ役だけど。
「お姉ちゃん」
ボケとツッコミの役割に気を取られていて、菜々子ちゃんの存在をすっかり、忘れていた。
服の裾を引っ張られ、頬が綻ぶ自分に、現金だなと感じつつ振り返るとボーダーの部屋着を手に取った菜々子ちゃんの姿。
「これ・・・・どう?」
白地にパステルカラーのボーダーのパーカー。フードにはちょこんと丸い耳つき。
下はショートパンツとハーフパンツの中間くらいの丈。
子ども用サイズも展開しているらしく、他にも水玉や花柄といった全体的に、女の子らしい可愛い雰囲気のものが勢ぞろい。
「可愛いね。よく似合ってるよ」
菜々子ちゃんなら何着ても可愛い。でも彼女がこれを着るということは、私たちもこれ、ということになる。
子ども用に獣耳、くまやねこ、うさぎといった可愛らしい耳をつけるのは頷ける、菜々子ちゃんにもきっと似合う。
それは子ども用であるから許されることで、大人用に耳は・・・・・・マニアックすぎるよジュネスさん。
正直、着られれば何でもかまわない。菜々子ちゃんはこれにしたそうだけど、後の2人が何というか。
「千枝ちゃん、雪ちゃん。これ・・・・」
「水玉もいいけど、花柄も・・・・でもボーダーが一番?」
「でもさ雪子、これ・・・・・耳ついてんですけど?」
「嫌なら後で切っちゃえばいいじゃない」
平然と返す雪ちゃんに、手をぽんっと叩いて、そうか!と目を輝かせる千枝ちゃん。
・・・・・・どうやら、心配のしすぎだったらしい。
「お姉ちゃんもいっしょに、えらぼう?」
見上げてくる菜々子ちゃんの頭を撫で、彼女達に加わった。