ゴシック建築の古城、その真紅の玉座にはピンクのドレスを纏ったお姫さま。
漆黒の髪、すっと通った鼻梁、切れ長の涼しげな目元。
ルージュのひいた口を吊り上げ、怪しく光る黄昏色の瞳が半円を描く。
『あなた、誰なの?ここ、どこ?』
傍らに蹲る和服姿の少女が、困惑気味に彼女を見上げる。
『私はあなた。あなたは私。天城雪子よ』
混乱しっぱなしで、的を得ない言葉しか発しない"雪子"に痺れを切らした"雪子"の顔が、歪む。
『だぁから!あなたは私よ。旅館の次期女将とかって、出来上がったレールに乗って、うんっざりしてる、天城雪子』
『なっ・・・そ、んなこと!』
『こっから抜け出したいのよね?だから、王子様を探すの、白馬に乗って私を連れてってくれる王子様!』
戦慄く"雪子"を他所に"雪子"がドレスを翻し、笑う、笑う、笑う。
人たりえない、黄昏色のソレに自分を映して。
『大丈夫!千枝なんかより、ずっっといい王子様が現れるから!』
"雪子"に注いでいた視線が、彷徨いふと、いるはずのない私を見とめ、交わった。
『諦めちゃえばいいじゃない?どうせ、見てるだけなんだから』
ブチンと映像が途切れたような、感覚といえばいいんだろうか。
見慣れた天井が視界に入り"見ていた"んだなと、漠然と思い返しため息をついた。
ふと隣から聞こえる、規則正しい寝息に首を右に曲げると、片割れが安らかな顔で眠っていて。
現実に帰ってきた、という意識を強くしてくれる。
その寝顔を眺めていると、無意識にため息が漏れた。悠の寝顔が、という話ではない。
死が目前に迫っている誰か、を見なくて済んだという安堵からだった。その代わり、ばっちり嫌味を言われたけど。
向こうの霧が晴れる時、つまりこちらに霧が出るとき、入れられた者が死体となる。
冷静になって思い返すと、被害者2名の時は該当していたから"見えた"今回は該当しなかったけど、中にいたから"見えた"ということなんだろう。
寝る前に思い出していたら、悠に狭い思いをさせずに済んだのに、考える余裕もなかったらしい。
客観的に考えることもできないなんて・・・・今までこんなことは"なかった"はずなのに。
これがどういうことなのか、稲羽に来てから少し変わった片割れにも意見を求めてみたい、が面と向かって言う勇気はまだ持ち合わせてない。
案外臆病なものだと、いつものように客観視してると、目元がピクリと動き、アイアンブルーの瞳がゆっくりと姿を現した。
「おはよ」
恒例の朝の挨拶を送ると、夢の中に片足突っ込んだままのような、擦れ声でおはよ、と返してきた。
瞼を開くのも億劫って、どれだけ寝たいんだ。最低限の視界を確保した悠は、しかめっ面のまま携帯に手を伸ばし、ややあってそれを戻した。
「まだ、寝る」
私も決定事項らしい、というか抱き枕は逃したくないようで、腕の中に抱きこまれてしまい、もう身動きが取れない。
しばらくして寝てしまえば、また離すだろうと結論付け、させたいようにさせていると、擦れて聞きとりにくい声が耳に届く。
「だいじょうぶ、だな」
疑問なのか、確認なのかどちらかにして欲しい。きっと確認だろうけど。
うん、とだけ返事をすると、また擦れた声で何か言ったが、聞き取れなかった。
ああ、とかうん、とかそういう曖昧な返事、だったように聞こえた。多分、間違ってない。
色々考えていたからか、ここのところぐっすり眠っていなかったからか、悠の穏やかな寝息につられたからか。
結局2度寝をしてしまい、悠に声をかけられたときは、約束の時間ギリギリで。
「何で起こしてくれなかったの?!」
慌しく動く私を他所に、よく寝てたから、なんて涼しげな顔でケロリと言うもんだから、怒気も霧散してしまって。
とにかく先に行っててと、この期に及んで待とうとする悠を送り出し、やや遅れてジュネスに向かうと、何故か入り口に人垣が。
パトライトがせわしなく回っているのか、赤い残像が壁や地面に見えて、目がチカチカする。
妙な事件が続いているからか、皆興味津々に人垣の隙間を伺っている。
何があったのか、気にはなるけど今はフードコートに急がないと。
人ごみを避け、別のもう一方の入り口から店内に入ろうとした時、聴きなれた声が耳に飛び込んできた。
「何かの間違いですって!」
「陽介?」
聞き間違い・・・・な訳ないか。それよりどうして、人垣の更に奥の方から声が?
聴き間違いかな、と首をかしげていると、パトカーがサイレンを鳴らして動き始め、なんとなく視線をやり驚愕に目を見開いた。
見知った顔が2人、警察官に挟まれてパトカーに乗っているのだから。
「悠?!陽介?!」
なんで?!と叫んでも2人に届くわけなく、パトカーはあっという間に見えなくなる。
呆然と立ち尽くしていると、ちゃん!と名前を呼ばれ、振り返ると焦燥しきった千枝ちゃんがいた。
「い、今の鳴上くんと花村だよね?何でパトカーに」
「分かんない・・・とりあえず、警察行こう?」
テレビに入ろうとしてて、それで不審者とかって・・・・・事件があって、警察もデリケートになってるだろうし。
憶測に過ぎないけど、とりあえず署に迎えに行く。
十中八九、叔父さんの耳に入るだろうな。ほぼ確信に近い予感を抱えながら、受付の署員に訳を話そうとした時だった。
廊下の突き当りから見覚えのある顔が、こちらへ歩いてきているではないか。
「悠、陽介」
近くなっていく距離で分かる、2人共微妙な顔で取り繕おうとしていることが。
叔父さんに絞られたな、あれは。私もとばっちり受けたらどうしてくれる。
嫌味の二つや三つ、言ってやらないと気がすまないと口を開こうとしたら。
「あのね、雪子・・・やっぱ朝になっても帰ってこないって!」
焦燥しきった表情で告げる千枝ちゃんに、思わず口を噤んだ。
こんなところで、時間を取られている場合じゃない。
「確かに、天城雪子さんの捜索願、ご家族から出てるよ。君ら雪子さんの友だち?」
二人に気を取られてすっかり忘れてたけど、彼らを連れてきたのは足立さんで、何故か彼も話に加わっていて。
というより、そんなこと気軽に口出すものじゃないんじゃない?
私の心中など知らない刑事は、内ポケットから手帳を出し、ページを捲くりながら尋ねた。
「天城さんから何か聞いてない?辛そうだった、とか」
「辛そう?」
「例の山野アナね、事件の前天城屋に泊まっててさ。色々クレームつけて女将さん倒れちゃったらしいんだよね。で、雪子さん女将さんの娘な訳だし・・・」
いったん言葉を区切って、周囲を確認した後声を潜める足立さん。ここだけの話し、と言わんばかりに。
「署内じゃ彼女、都合悪いことがあって隠れてる、なんていう奴もいてさ?」
案の定、その言葉に反応して悲鳴のような声を上げたのは、千枝ちゃん。
「何よそれ!雪子が犯人ってこと?!」
「いや、あくまでそういう噂が・・・」
ようやく彼は失言したことに気づいたらしい、が後の祭り。
完全に頭に血が上って、反射的に掴みかかろうとした彼女を男子2人が抑える。
「そんな訳ないでしょ?!雪子は、雪子は・・・・!」
親友が得体の知れない世界で、危険に晒されているというのに、心配されるどころか、嫌疑までかけられて。
やりきれなさを痛いほど感じ、千枝ちゃんと呟いたときだった。
「何をやってるんだ!」
叔父さんの厳しい声が玄関に響き、それにつられるよう警察官も集まりだす。
唇をかみ締め悔しげに雪子が、と繰り返し呟いている千枝ちゃんを一瞥し、なんとなく事情を察したらしい。
上司は部下に睨みをきかせ、その場の収拾がついた。
力なくうな垂れる千枝ちゃんを、悠と陽介が付き添い玄関へ向かう。
その後に続こうと踵を返したとき、と叔父さんから呼びかけられ、立ち止まる。
「お前ら・・・・・・何をやってる?」
私たちの友だちが関わっていることを知り、事件に首を突っ込んでくるのではないか、とそういうことを聞きたいんだろう。
流石ベテラン刑事、と心中で呟きそ知らぬ顔で何、とは?と質問で返すと、叔父さんは一層眉間に皺を寄せた。
「言いたいことは、分かるな?」
「はい、ご心配お掛けしました。悠にも、彼にもよく言っておきますから」
模範解答に少しやり過ぎたと思いつつ、まだ無言を貫く保護者と視線を交える。
逃げ出したいくらいの、鋭い視線に思わず息を呑んだ。
だからといって、ここで視線を逸らしてしまっては説得力がないと、耐えていると。
「ど、堂島さん!もう、いいでしょう?」
終止符を打ってくれたのは、意外や意外。鬼上司の部下、だった。
ちょっと頼もしいかも?と見直していたのに、叔父さんの一瞥を受けてビクリと肩を震わせていて。
うーん、やっぱズッコケ認定か。と皺くちゃの背広を眺めていると、叔父さんは逸らしていた視線を私に戻し、ため息をついた。
「事件のことは警察にまかせておけ。いいな?」
色々言いたかったはずだろうに、それを呑み込み端的に告げるので、私もただ首を縦に振った。
足立、コーヒーと告げ去っていく叔父さんに、ため息が漏れる。深く長いものが。
ようやく緊張から開放され、安堵できた。
「天城さんのことは任せて、ね?」
元はといえば、あなたの失言が原因だ。そう言えないかわりに一睨みすると、何?とたじろいだ。
「私たちも気をつけますから、足立さんも、気をつけてくださいね」
「あー・・・ははっ」
「足立ィ!いつまでも部外者と話してんな!コーヒーまだかよ」
「っと・・・!それじゃ、僕は行くから。」
慌てて走っていった足立さんを見送りながら、違和感に首を傾げる。
ズッコケに見せかけて、実は賢い人なんじゃなかろうか。
先程の"気をつけてください"の意味、理解してて苦笑いを浮かべたみたいだし・・・・いや、そうじゃなくて、ただ笑っただけかも。
「何やってんだよ、」
本当私は何やってるんだろう。元はといえば、君ら2人が原因じゃない。
「誰かさんたちのおかげで、叔父さんに注意を受けてたんです」
「あー・・・・悪ィ」
シュンと項垂れる陽介は、直情型で分かりやすい。だから話してて安心できるのかな?
それに比べて大人って・・・・油断ならないってのは変だけど、分かりにくいから困る。
経験から、防衛手段であったり、手を抜く程度を分かっていたり・・・・私たちにもあるけど、さ。
上手すぎて分からなくなるんだよね。だから、困る。
私や悠も"分かりにくい"部類で、かわい気のないガキなんだろうけど。
気まずそうに視線を彷徨わせる陽介の肩を、すれ違いざまに叩いて、一つ貸しとね、と告げると。
「ええ!?里中に続いてお前も?」
この世の終わりだ、と言わんばかりの悲痛な声に思わず噴出した。
警察の対応を見た後、千枝はテレビに入る決意を一層強くし、3人が向こうへ。
連行されたことを踏まえて、武器を隠すために制服に着替え、ジュネスに再集合。
テレビの中に入れない私は、こっちで3人の帰りを待つつもりだけど、家電売り場にじっとしていると、かなり目立つ。
だからフードコートで、帰りを待つことにしたんだけど。
「ねむっ」
重力にしたがって下がる瞼に、抗うことができない。
沢山眠らないと、眠くなるとかそういう体質じゃないはずなのに、何で?
ていうか、もう我慢できない。考えることを放棄して、プラスチックのテーブルに突っ伏した、までは覚えてる。
次に目を開けたら"見えていた"
何がって、悠と陽介、千枝ちゃんと、一匹のクマが。
見えていたのは、マヨナカテレビに映って、かつ入った人だと思っていたけど。
あっちに入ってしまったら"見えるんだ"というより"見ることを強いられている"ようだけど。
悠たちが使える"ペルソナ"と"私だけテレビに入れない"ことと何か関係があるんだろうか?
その前に能力じゃなくて、誰かに見せられてるんだとしたら?
うーん・・・・考えすぎ、かな?とにかく後で、悠たちに相談してみよう。
結論がでたタイミングを見計らったように、千枝ちゃんが脱兎の如く走り出した。
慌てて後を追う2人と1匹。彼らがたどり着いたのは、古城。私が昨日見た場所、そのものだった。
慣れてきた感覚に戸惑うことなく"またか"と思えるのは、余裕と呼べるんだろうか。
行く手を阻むシャドウを次々倒し、ようやく千枝ちゃんの姿を捕らえた時だった。
「赤が似合うねって」
落ち着いているせいか、哀愁を漂わせていた。
雪子という名前が、雪嫌い。儚くて、すぐ溶けて、意味の無いもの。
でも、旅館の跡継ぎ以外意味の無い私には、お似合いの名前。
「だけど千枝だけが言ってくれた。雪子には赤が似合うねって・・・・千枝だけが意味をくれた。明るくて強くて何でもできて、私にないもの全部持ってる。
千枝は私を守ってくれる、何の価値もない私を。私、そんな資格ないのに・・・・・・優しい千枝」
その気持ちは痛いほど分かる。私も同じようなことを、たまに考えてしまうから。
私の片割れも同じ。何でもできて、強くて、明るい・・・・かは分からないけど。
言葉がなくったって、欲しいものを欲しいまま与えてくれる、守ってくれる。優しい悠、大好きな悠。
私は鳴上悠っていう人格の影、みたいなものだと思う。
ネガティブな意味じゃなくて、事実、客観的に見てそうなんだ。
悠っていう光がいるから、私っていう影がいられる。悠なしじゃ、私はいられない。
狂気を感じさせる依存、だと思う。私だけじゃなくて、悠も。お互いがお互いに依存して、ようやく立ってられる。
何がきっかけか、なんて覚えてない。気づいたら、そうだった。私も、半身も。
「優しい千枝、だってさ・・・・笑える」
あざわらう千枝の声に、我に返り気がついた。
千枝ちゃんのもう一人がいることに。黄昏色に染まった瞳が半円を描く。
「雪子が、あの雪子が!?あたしに守られてるって!?自分には何の価値も無いってさ!」
そうでなくっちゃ!と高笑いするもう一人は、活き活きとして曝け出す。
心の奥底に閉まっておきたい、本音を。
「本当に何も出来ないのはあたし。人としても、女としても、本当は勝てないどうしようもない、あたし
でもあたしはあの雪子に頼られてるの!だから雪子はトモダチ、手放せない・・・雪子が大事」
「そんなっ、あたし・・・ちゃんと、雪子を」
「ふふ・・・今までどおり、見ないフリであたしを抑えつけるんだ?けどここでは違うよ。
いずれ"その時"が来たら、残るのは・・・あたし。いいよね?あたしもアンタなんだから!」
見たくない、知られたくない、本音。
もう一人は、違うと頭を抱えて怯える千枝ちゃんを眺めてニヤついた笑みを浮かべていたが、ふと何かに気づき、視線を彷徨わせ。
いるはずのない私と彼女の視線が交わると、口元を吊り上げ、哂った。
「いい加減自覚したら?何もできないって!」
まただ。
ブツリと映像が途切れ、瞬く間にフードコートが戻ってくる。
耳に馴染むジュネスソングが、呑気すぎて力が抜ける。
いまいちシリアスになりきれないというか・・・・・そうなる必要もないんだけど。
なんか、疲れた。
頭だけ机において、両腕はだらしなく放置、はあああと深いため息をつく。
多分あのまま千枝ちゃんのシャドウと戦って、雪ちゃんのいるところを目指すんだろう。
なのにここで目覚めるって、やっぱり誰かが見せてる、のかなあ・・・テレビに入れないのも、誰かのせい?
犯人がそうしてる?
「いい加減自覚したら?何もできないって!」
苛立ったよ、もんの凄く。でも事実、反論のしようがない。
傍観者から脱するにはどうすればいいのか、なんて誰も答えはくれない。
"何かできるかも"なんて考えながら、結局見てるだけ、待ってるだけ。
「今にみてろよ、誰か」
うじうじするのは、止めよう。自分に言い聞かせ、体を起こし普通に腰掛けた時だった。
「よお!」
明るい声に顔を上げると、悠、陽介、千枝ちゃんの3人がそこにいた。
心なしか千枝ちゃんの顔色が悪い、それに疲れてそう。テーブルに腰掛けた彼女に大丈夫?と尋ねると、苦笑いをして頷いた。
「見たのか?」
開口一番、悠が言い"見た内容"と"憶測"を伝えた。
「誰かに見せられてる、か・・・・有り得そうだな」
「誰かって・・・・犯人?」
「もし犯人なら、わざわざ見せたりするのかな?私がテレビに入ることが、都合悪いってことなら分かるんだけど」
「入れたくない、見せたくないなら、わざわざ夢なんて方法で見せたりしない、ってことだな?」
陽介がそう概括したところで、シャドウに言われた言葉の数々が蘇った。
「挑発、されてるのかな?今までシャドウに言われたことって、全部私を無力だって笑ってるもの」
「本当はもテレビに入れたい、ってことか?」
「負けず嫌いだしな、お前」
「悠もね」
「だとしたら・・・ちゃんも危なくない?」
「それはないでしょう?殺人に関わった人が入れられてるんだし・・・昨日も確認したんだけど、私やっぱりテレビに入れないの」
悠がテレビに手を突っ込んでいるときに触っても、そこだけ普通に戻ってしまう。
「分からないことだらけで、こんがらがりそーだわ」
陽介が疲れたようにため息をつくと、千枝ちゃんが心配そうな顔で私を見た。
「でも一応、注意することに越したことないよね」
「ありがとう、一応気をつけとく。それで何か、分かったことある?」
私が主に聞こえてたのは、千枝ちゃんのシャドウが喋っていたことだけ。
その他は声が小さすぎて聞こえないし、濃霧が酷くて視界悪いし、補足してもらわないと分からない。
すると千枝ちゃんが、マヨナカテレビは誰かが撮ってるんじゃないんだって、と切り出した。
「中に入った人が生み出してるんだって。雪子の場合はあのお城と・・・・」
「逆ナン、ね・・・・やっぱシャドウが映ってるんだ、マヨナカテレビは」
清楚な雪ちゃんから、絶対に出てこなさそうなワードをポンポン言ってしまうのは、もう一人しかない。
抑圧され続けた本音が、性質悪く暴走してしまっている。
「天気予報チェックして、次の雨が続く日までに、必ず」
千枝ちゃんと頷きあうと、あ、と唐突に悠が声を上げた。
「俺、リーダーになったから」
何がどうなって、そうなったのか、是非とも説明してからそう言って欲しい。
いくら身内とはいえ、流石に情報が少なすぎる。
私の責める様な視線を察知したのか、言う前に敬意を掻い摘んで説明した。
「こいつが始めにテレビ入れる能力もってたし、それにペルソナ沢山使えて強いしな!」
「花村に比べて、鳴上くんは冷静だから。安心して任せられるし」
「俺は参謀ってポディションなの。里中、お前役職なくてスネてんのか?」
「違うっつーの!」
言い合いを始めた2人を放置し、少し声を抑え悠に尋ねる。
「大丈夫?」
それだけで何が大丈夫、なのか察したらしい。穏やかな笑みを浮かべながら、頷いた。
「誘われたとはいえ、俺が決めたことだ・・・・ありがとう」
お人よしだから、断れないトコを持ってる。
けど今回は違うみたい。安請け合いじゃなく、自分で考えて決めたことらしい。
過去そうなったときは、平静を装いながらも不安と寂しさに揺れていたから。
その傾向が見られないから、嘘でもない。
変わったな。率直に胸に降りてきたのは、そんな感想だった。
踏み込むのを躊躇っていたのは、私も同じだけど。
ううん、悠は私以上に覚悟のある人間で、私以上に優しいんだ・・・・
「そっか。頑張れ、リーダー」
「うん。補佐頼みます、さま」
にっこり笑われて、全てを悟ってしまった私は、微かに眩暈のする頭を片手で支えた。
一人じゃ負担が多い。みんなも頼るけど、一番近いのは私。多分・・・・そういうこと。
意気込んで一人でやられるよりまし、かな?
改めてため息をついた私の隣で、ふふっと小さく笑みを漏らす声が聞こえた。